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更新日:2016年12月1日

指導資料No.67 高等学校の中途退学を防ぐために

目次

  1. はじめに
  2. 公立高校中途退学の現状
  3. 中途退学者を出さないために
  4. 中途退学者の声から
  5. 中途退学者が減少した高等学校の取り組み例
  6. 資料

平成11年1月11日 長野県教育委員会

 1.はじめに

 平成9年度中に全国の公・私立高等学校を中途退学した生徒は11万1,491人、在籍者全体に占める割合は2.6%と、調査開始以来最も高い数値となりました。長野県においても、ここ数年再び増加傾向を示しており、平成10年度上半期では406人(公立)で、前年同期比で36人、9.7%の増加となっております。高校への進学率が98%を超えている現在、中途退学者の増加は、中学校における進路指導と高校での教育のあり方への根本的な問い掛けであると受け止めることが大切です。この問題の解決については、これまで以上に中学校と高等学校が連携し、それぞれが取り組むべき課題を明確にして努力していく必要があります。

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 2.公立高校中途退学の現状

(1)中途退学者の推移

 県内公立高等学校の中途退学者の推移は下表のようになっています。(全日制・定時制計)

 在籍者数に占める中途退学者数の割合は、平成3年度から横ばい傾向を示していたものの、8年度から再び増加に転じ、9年度では2.1%の中退率となっています。
 10年度上半期の中退率は0.7%で、6カ月ごとの統計を取り始めた昭和58年度以来最高となっています。

(2) 学年別中途退学者の状況

 長野県における平成9年度の中途退学者を学年別にみると、1学年が668人、2学年498人、3学年(定時制4学年を含む)が159人で、1学年の中途退学者が全体の50.4%を占めています。この傾向については、10年度の上半期も同様で、1学年が全体の49.5%を占めています。

学年別男女別中途退学者数(10年度上半期)

 

1学年

2学年

3学年

4学年

計(前年度比)

男子(人)

146

82

44

1

273 (+24)

女子(人)

55

54

23

1

133 (+12)

計(人)

201

136

67

2

406 (+36)

構成比(%)

49.5

33.5

17.0

 100.0

※4学年定時制、構成比は3学年に含む

(3)理由別内訳

 平成9年度中途退学者の理由別内訳をみると、「進路変更」によるものが41.1%で最も高く、次いで「学校生活・学業不適応」が38.5%となっており、両者を合わせると8割を占めています。ここ数年の推移をみると、「進路変更」の占める割合が減少する一方で「学校生活・学業不適応」の割合が増加しており、10年度上半期には、「進路変更」の38.4%に対して「学校生活・学業不適応」が47.3%と逆転し、理由別のトップとなっています。

(4)中途退学者の増加の背景等

社会全体の状況

  • 「フリーター」などという言葉に代表されるように、自由で束縛されない生き方が一般化してきている。
  • バブル崩壊前には、安い労働力の確保という点で、中途退学者の受け入れ先が豊富にあった。
  • 「不登校」が増加するなかで、「学校は、どうしても行かなければならないところ」という風潮が薄れている面がある。

生徒の状況

  • 目的意識の希薄化や学習意欲の低下がみられ、主体的に進路選択をしていくことよりも、「みんなが行くから」とか「何となく」というような安易な進路決定をしている場合がある。
  • 高校生活で、学力や教養を身につけ、先に進みたいと思う気持ちよりも、高校生になったら遊びたい、というような甘い考えの生徒が多い。
  • 中学校時代に不登校だった生徒が進学し、適応できずに再び不登校になるケース、高校に入学してから新たに不登校になるケースなどがある。
  • 高校での新たな人間関係が取り結べず、中学校時代の交友関係を引きずって問題行動を起こし、中途退学をしていくケースがある。
  • アルバイト等を経験して、学業よりも職業に就くことのほうに興味や適性を見いだし、中途退学していくケースがある。
  • 大学入学資格検定等の制度を生かして、抵抗感なく進路変更を行う生徒がいる。

学校の状況

  • 小学校を含め、進路指導が児童生徒の「夢のある将来設計」につながるものになっておらず、どの高校に進学するか、という目先の問題にとらわれている面がある。
  • 中学校の進路指導のなかで、高等学校の教育課程や学習のシステムなどについての指導が不足していることから、生徒が高校生活に対する誤った認識を持ってしまう面がある。
  • 一人の生徒をめぐって、中学校と高等学校が連携して相談体制を組んだり、情報交換をし合ったりする体制が十分にできていない。
  • 小学校、中学校での「基礎学力の定着」や、高校での「参加する授業」など、一人一人の力を見極め、個に応じた授業を進める工夫や努力が不足している面がある。

家庭の状況

  • 保護者自身が学歴志向から脱しきれず、それが子供の意欲や熱意に反映し、劣等感や無気力を引き起こす原因となっている面がある。
  • 少子化、核家族化、単身赴任の増加など、子供を支える基盤である家庭の環境が変化してきている。

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 3.中途退学者を出さないために

(1)中学校での指導

①進路適性検査等の実施などを通して、一人一人の興味や関心、適性、将来の夢などについて自己理解を深めさせ、将来展望のもとに、主体的かつ柔軟に進路決定ができるよう指導する。

②生徒の個性や能力を見極め、進学先で力が十分発揮できるよう、各高校の特色などについて具体的に情報提供を行う。

  • 「進路情報コーナー」の充実・高校教師や卒業生による「進路講話」の実施(できれば学級ごとで)
  • 学校紹介ビデオライブラリーの充実等

③高等学校の教育課程や学習のシステム、生活などについて理解が深められるよう、保護者を含めて指導する。

  • 高校教師によるオリエンテーション
  • 義務教育との違いについてのきめ細かな指導
  • 高等学校での体験学習、体験入学等

④入学後、高等学校の生活に定着するまで、高等学校の担任等と連絡をとりながら、生徒が悩みの相談などを、中学校時代の担任とも気軽にできるよう連携する。

(2)高等学校での指導

①個々の生徒に対する理解の深化、個性の尊重に一層の配慮をするとともに、ホームルーム活動の内容の改善・充実を行い、教師と生徒、生徒相互の好ましい人間関係の醸成に努める。

②相談体制の充実を図る。特に、入学当初から学校生活に不満や孤立感等を感じている生徒等へは、きめ細かな相談・援助ができるよう全校での体制を整える。

③生徒が伸び伸びと生活できるよう、校則などの再検討等を行い、現状に適合したものとしていく。また、校則違反等の指導についても、単に懲罰的、画一的な指導にならないよう、個々の状況に十分配慮し、支える指導に徹する。

④生徒の出身中学校の担任や進路指導主事、生徒指導主事等との連携を密に行い、必要によっては、双方で相談等を行い支える体制を作る。

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 4.中途退学者の声から

 県内の高校中途退学者を対象にした聞き取り調査から、一部抜粋して紹介します。一旦入学しながら中途退学していった生徒の言葉のなかに、指導の問題点が浮き彫りになっています。

Q 入学した高校は、どのように選びましたか。
  • 両親に「高校ぐらいは出ておけ」と言われ、自分のレベルにあった近くの学校を選んだ。
  • 学力的にこの学校が適当であると担任の先生に言われて。
Q 高校生活はどのような状況でしたか
  • 授業では一方的に叱る先生が多く、内容もつまらなかった。
  • 友達との遊びは楽しかったが、勉強は好きではなかった。
  • 部活の顧問は正選手中心の指導で、自分のような力のない生徒を相手にしてくれなかった。
Q 中途退学した理由はなんですか
  • 集団のなかで居場所を見つけられなかった。
  • 問題行動を起こし、1カ月の家庭反省になってから続ける意欲がなくなった。
  • 中学校では不登校。環境が変われば、と思ったが、対人関係が苦手で続けられなかった。
Q 現在、どのようなことで悩んでいますか
  • アルバイトといえども、ほとんどの職業が高卒でないと採用されないこと。
  • 高校時代の友達と町で出会うのがいやだ。
  • これからどうすればよいかわからない。
  • 人付き合いがうまくできず集団に入れない。
Q 高校に対する要望等
  • 個々のレベルに合った授業をしてほしい。
  • わかる子だけついてこい、というような授業でなく、もっとわかりやすく教えてほしい。
  • 相談室を設置してほしかった。同性(女性)の相談員だと話しやすいと思った。
  • 話を聞いてくれる先生がもっといてほしい。
  • 尊敬できる先生がたくさんいてほしい。等

 

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 5.中途退学者が減少した高等学校の取り組み例

 A高等学校では、①個に応じた生徒指導、②参加する授業、分かる授業の実現、③開かれた学校づくりなどの視点から、年間を通じた取り組みを行っています。

  • 新入生に対する早期適応指導
    オリエンテーション合宿・ルーム長合宿・一斉家庭訪問・生活実態調査
  • 学習意欲を高め、基礎学力定着のための授業改善
    コース制、資格取得の奨励、課外講座・学習指導委員会の充実・作業学習
  • 教育課程の工夫や単位認定基準の弾力化
    選択幅の大幅な拡大・追試や学力補充授業による特別認定制度・家庭反省中は出席扱い
  • 相談体制、指導体制の充実
    相談室の設置、充実・相談担当職員の配置・カウンセラーや外部機関との連携・専門家等を講師とした職員研修の実施
  • 問題行動から中途退学させない指導
    家庭反省から登校反省に・家庭反省期間の短縮・校長、教頭の面接指導・多くの職員の関わり・保護者との連携強化
  • 不登校・不登校傾向生徒に対する指導
    空き教室の活用等、校内の受け入れ体制の充実・不登校対策委員会の設置と活動・教育相談委員会の設置と活動
  • 中学校との連携
    学校単位の中高連絡会、授業公開・「学校案内」の充実・中学校訪問・職員交流会・教科等の共同研修会
  • 家庭・地域への啓発
    PTA主催の研修会・保護者懇談会・地区PTA、学級懇談会の工夫・「学校通信」「生活指導通信」等の発行・いじめ等対策委員会の活動・地域の各界代表者との懇談会

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 6.資料

「大切なこと」  諏訪実業高等学校四年 岩井 信子

 私が、諏訪実業高校定時制に入学しようと決めたのは、二歳になる娘を一人で育てていかなければならない状況におかれた時でした。
 一生アルバイトだけでは生活していかれません。中卒では就く職業が限られてしまいます。ですから、もう一度高校へ行き、卒業したいと思ったのです。
 私は、子供のころから面倒なことが嫌いで、やりたいことだけを後先考えずにやってきました。中学三年になって受験する高校を決めるとき、先生や両親には、「唯一自信のあったピアノの道に将来進みたいから音楽のコースのある高校へ行きたい。」と言いながら、本当は、受験勉強がいやなので、学校から推薦してもらえる高校を選んだのです。
 そんな軽い気持ちで行きはじめたので、学校を続けることはできませんでした。遠くて朝起きるのが大変だとか、アルバイトをして給料をもらったとき、こんなことで稼げるのなら高校へは行かなくてもいいのではないか…などと、また軽い気持ちで中退してしまったのです。
 ずっと頑張っていたピアノも「続けていて、何になるのだろう。」と思ったときには、もう練習さえしなくなっていました。
 いつも私は自分にとって楽なほう、楽なほうへと考えて行動してしまい、つらいことからは逃げて後先のことなど何も考えていませんでした。
 けれども、ずっと楽をしてきた分のつけが、後になって一度にきてしまったと思います。学校をやめたことなどを、色々考えても、後悔をしても、決めたのは自分、誰のせいでもない。
 やっとそう思えるようになったのは娘のおかげです。もし、なにかが違っていれば、今いる娘には会えませんでした。こんな私でも、娘にとっては母親です。私が守ってあげなければ、と思った時からは、ずっと先のことまで考えられるようになりました。
 転々としていた仕事もそれまでのようにすぐやめたりもしなくなり、高校へ行こうと決めたのも、サービス業ではなく、日曜日や夜は娘といられるような仕事につきたかったからです。
 定時制へ通う四年間は、娘に寂しい思いをさせてしまうけど、今しかできないことはやっておきたいと思ったのです。
 人間としてまだまだ未熟な私が母親なんてやっていけるのか、とても不安でしたが、娘は私を必要としてくれるのでそれにこたえてあげたい、そして娘と一緒に私ももっと成長しなければならないと思いました。
 そんなとき、一つの出来事がありました。定時制を受験する前、証明書をもらいに前に通っていた高校へ行ったときのことです。私がいた頃とは違い、新しい校舎ができていました。ピアノ付きの個室が十室以上もあり、一人一人練習しているのを見ました。
 先生に「もう少し頑張っていれば使えたのにネ……。」と言われました。何をしても長続きのしない私でも、ピアノだけは頑張っていたので、悔しい気持ちと情けない気持ちで涙が止まりませんでした。
 そして、そのとき思い知らされたのです。物事は、できる時にやらなければいけないということ、目的に向かって、今自分がしなければならないことが、どんなに大切なことなのか、ということを。そして私は、定時制での学校生活を、ただ何となく過ごすのではなく、目標をもって、自分の中に残ることをしようと思いました。それは、取れる資格をできるだけ取るということです。
 一年の秋、ワープロ検定がありました。毎日学校に残り、先生に協力していただき、三級に合格することができました。二年のときは二級を取得し、三年の時は一級を目指して練習しました。三級、二級とは違い、一級は自信がありませんでした。昼間は仕事、夜は学校、家へ帰って娘を寝かせてからの数時間、頭が痛くなるまで練習をしました。
 しかし、速度試験で一文字足らず、合格は出来ませんでした。自信はなかったものの、頑張っただけに、やはりショックは大きかったです。
 あと一年しかない、必ず合格しようと、それから半年間、何も考えずにただワープロだけを練習しました。そして四年の春、ワープロ一級に合格することができたのです。
 そのほか、授業にはない簿記も、先生に教わりながら勉強し、三級に合格しました。
 本気でやろうと思えば何でもできると、先生や友達に言われましたが、ここまで頑張れるとは、自分でも驚いています。そして、自信もつきました。
 定時制へ入学してからの四年間、娘に寂しい思いをさせてしまったり、大事な時にそばにいてあげられなかったこともありました。
 でも、定時制の先生に、「一緒にいる時間よりも気持ちを伝えることの方が大切だと思う。」と言われたり、友達や両親にも励まされ、なんとかここまでやってこれました。
 私にとってこの四年間は、今まで生きてきたなかで、一番頑張った四年間でした。色々遠回りをしてきましたが、娘が大きくなったら、自信をもって私の四年間を話してあげたいと思います。

(平成10年度 県内高校定通制生徒体験発表「最優秀賞」)

資料のポイント

  • 「私」の安易な進路選択や、希薄な目的意識、やり通す粘り強さの不足などが中途退学に結びついたこと。
  • 中退してみて、いろいろなことに気づいたこと。
  • 目的意識をもって挑戦することが、有意義で実りの多い高校生活を実現すること。
  • 中途退学をしても、再度チャレンジする道は開かれていること。等

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電話番号:026-235-7450

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