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更新日:2023年5月15日

環境保全研究所

長野県におけるカラマツ林の炭素収支の気候変動応答と森林管理による緩和策の評価

研究期間

平成30(2018)年度~令和2(2020)年度(3年間)

背景

 長野県では温暖化が進行しており、将来はこれまで以上に急激な気温上昇が予測されている出典1)。2019年10月には令和元年東日本台風が襲来し、山岳に囲まれた長野県も豪雨に見舞われ出典2)、大規模な災害が発生した。これを契機に長野県は2019年12月に気候非常事態を宣言し、2050年の二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロを実現するために長野県気候危機突破方針を策定した。全国3位の森林面積を有する長野県において、森林吸収源対策も有効な緩和策の1つである。しかし、戦後、長野県では全国に先駆けてカラマツ造林が行われてきたことから、人工林の55%を占めるカラマツ林は高齢級となり、CO2吸収能力は低下している。森林資源を健全に維持・管理することで将来の森林CO2吸収量をどの程度確保できるのか定量的に評価することは、将来の森林政策や環境政策を考える上で重要な課題である。

出典1)長野県における気候変化の観測事実と将来予測

出典2)令和元年東日本台風による豪雨と中部山岳 

目的

 本研究はカラマツ人工林を対象に、高解像度気候予測値と陸域生態系モデルを利用して、将来の高温・高CO2濃度下における森林生態系の炭素収支の将来予測を行い、間伐や樹種転換等の森林管理が将来の炭素収支に与える効果を評価することを目的とする。

内容

 本研究は、(1)葉群フェノロジーの観測、(2)土壌呼吸の観測、(3)陸域生態系モデルによるシミュレーション、の3つに分割できる。上記(1)は光合成によるCO2吸収、上記(2)は呼吸によるCO2放出、を評価する上で重要な因子である。上記(3)では(1)と(2)の各観測で得られた知見を陸域生態系モデルに組み込み、炭素収支(CO2吸収ーCO2放出)を計算する。

(1)葉群フェノロジーの観測

 飯綱庁舎(標高1030 m)のカラマツ林における気象観測、カメラやLAI-2200による植物面積指数の観測、ドローン空撮画像の解析、に基づきカラマツ林の展葉・落葉のタイミングと気象要素の関係を評価した。例えば、2019年春には5月上旬に展葉開始し、5月末に展葉完了している様子が捉えられた(図1)。カメラによる観測・解析の詳細はこちら、ドローンによる観測・解析の詳細はこちらをご覧ください。

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図1 2019年春の長野県環境保全研究所(飯綱庁舎)における展葉の様子

(2)土壌呼吸の観測

 飯綱庁舎のカラマツ林で定期的な土壌呼吸の観測、メッシュシート等を用いた各構成要素(根呼吸、菌糸呼吸、微生物呼吸)の分類、地温や土壌水分等の土壌環境の観測に基づき、土壌呼吸速度の温度感受性(Q10)を構成要素毎に評価した。観測の結果、飯綱庁舎のカラマツ林における土壌呼吸速度のQ10は2.7で、各構成要素のQ10は菌糸呼吸、根呼吸、微生物呼吸の順番に高かった(図2)。土壌呼吸の観測・解析の詳細はこちら(別ウィンドウで外部サイトが開きます)をご覧ください。

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図2 土壌呼吸に占める各構成要素の割合、および温度感受性

(3)陸域生態系モデルによるシミュレーション

 上記(1), (2)に基づく関係式を陸域生態系モデルに組み込み、これに高解像度化した気候予測値を入力して、2050年のカラマツ林の炭素収支を予測した(図3)。その結果、2050年は2010年に比べて炭素収支が6.5%増加すると予測され、この6.5%の増加にはCO2施肥効果が4.6%、気候変動効果が1.9%を占めると評価された(図4)。2040年までに皆伐してカラマツを植林すると2050年の炭素収支を約1.5倍に増やせるが、スギを植林しても2050年の炭素収支は増えないと評価された。モデルや解析の詳細はこちら(別ウィンドウで外部サイトが開きます)をご覧ください。

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図3 陸域生態系モデル(VISIT)によるシミュレーション 図4 炭素収支の将来変化量に寄与する各月のCO2施肥効果と気候変動効果

成果一覧

誌上発表

国際誌

Azusa Tamura, Hiroyuki Oguma, Roma Fujimoto, Masatoshi Kuribayashi, Naoki Makita (2022) Phenology of fine root and shoot using high frequency temporal resolution images in a temperate larch forest. Rhizosphere, Vol. 22, 100541, https://doi.org/10.1016/j.rhisph.2022.100541(別ウィンドウで外部サイトが開きます).

Naoki Makita, Roma Fujimoto, Azusa Tamura (2021) The contribution of roots, mycorrhizal hyphae, and soil free-living microbes to soil respiration and its temperature sensitivity in a larch forest. Forests, 12(10), 1410, https://doi.org/10.3390/f12101410(別ウィンドウで外部サイトが開きます).

国内誌

栗林正俊,田中健太, 渡邊理英, 小熊宏之 (2023) 長野県北部のカラマツ林における葉面積指数の推定. 長野県環境保全研究所研究報告, 第19巻, (受理済).

栗林正俊 (2022) 長野県におけるカラマツの葉群フェノロジーの地域特性. 長野県林業総合センター技術情報, 第167号, 14-17.

尾関雅章,栗林正俊 (2021) UAVを用いたカラマツ人工林の葉フェノロジーの観測. 長野県環境保全研究所研究報告, 第17巻, 67-71.

栗林正俊,尾関雅章 (2021) 信州カラマツの炭素収支の気候変動応答に関するモデル解析. 長野県環境科学技術者協議会報, 第130号, 6-9.

栗林正俊,浜田崇 (2020) 飯綱高原のカラマツ人工林における2018~2019年の気象観測. 長野県環境保全研究所研究報告, 第16巻, 59-64.

尾関雅章,栗林正俊 (2019) 長野市飯綱高原におけるカラマツ高齢人工林の樹木成長. 長野県環境保全研究所研究報告, 第15巻, 45-49.

学会発表

国際学会

Masatoshi Kuribayashi, Yoshiyuki Takahashi, Akihiko Ito, Naoki Makita, Hiroyuki Oguma (2019) Phenological observation of Japanese larch on a mountainous landscape in central Japan, and application to carbon budget simulation by using a process-based terrestrial ecosystem model, America Geophysical Union 2019 Fall Meeting, 9 December 2019, San Francisco, USA.

国内学会

栗林正俊, 伊藤昭彦 (2021) 長野県の2050ゼロカーボンに向けたカラマツ人工林の森林管理, 第62回大気環境学会年会, 2021年9月15日, オンライン開催.

田村 梓, 小熊宏之, 藤本稜真, 栗林正俊, 牧田直樹 (2021) カラマツのシュートと細根のフェノロジーは同期するのか?, 第132回日本森林学会大会, 2021年3月19-23日, オンライン開催.

栗林正俊, 伊藤昭彦 (2021) 森林管理が近未来の信州カラマツの炭素収支にもたらす効果の評価, 日本農業気象学会2021年全国大会, 2021年3月18-31日, オンライン開催.

牧田直樹, 藤本稜真, 田村 梓, 栗林正俊 (2020) 長野県飯綱高原のカラマツ林における土壌呼吸速度の構成要素の寄与, 第10回中部森林学会大会, 2020年12月6日, オンライン開催.

田村 梓, 小熊宏之, 栗林正俊, 牧田直樹 (2020) カラマツ林のシュートと細根のフェノロジー観測:シュートと細根の色の変化はいつ起きるのか?, 第10回中部森林学会大会, 2020年12月6日, オンライン開催.

栗林正俊, 伊藤昭彦 (2020) 中部山岳域におけるカラマツ人工林の炭素収支の気候変動応答と森林管理の効果に関するモデル解析, 第25回大気化学討論会2020, 2020年11月11-13日, オンライン開催.

栗林正俊, 小熊宏之, 井波明宏, 田中健太, 金井隆治 (2020) 長野県のカラマツ林における葉群フェノロジーと積算気温の関係の地域性, 日本気象学会2020年度秋季大会, 2020年10月25-31日, オンライン開催.

栗林正俊, 小熊宏之, 佐々木博行, 家合浩明, 高橋善幸, 清水英幸 (2020) 気候変動と地上オゾンが飯綱高原のカラマツ・ブナに及ぼす影響を評価する試み, 第61回大気環境学会年会, 2020年9月14日-10月4日, 誌上開催.

栗林正俊, 伊藤昭彦 (2020) 大気CO2濃度の上昇と気候変動が中部山岳域におけるカラマツ人工林の炭素収支の将来変化に与える影響のモデル解析, 第61回大気環境学会年会, 2020年9月14日-10月4日, 誌上開催.

栗林正俊, 伊藤昭彦, 高橋善幸 (2020) 中部山岳域におけるカラマツ人工林の炭素収支の気候変動応答, 日本農業気象学会2020年全国大会 (2020年3月開催予定だったがCOVID-19により中止となり講演要旨のみ)

田村梓, 小熊宏之, 藤本稜真, 栗林正俊, 牧田直樹 (2020) 長野県カラマツ林におけるシュートと細根の動態と色変化の関係の解明, 第131回日本森林学会 (2020年3月開催予定だったがCOVID-19により中止となり講演要旨のみ)

藤本稜真, 田村梓, 栗林正俊, 牧田直樹 (2019) 長野県飯綱高原のカラマツ林における土壌呼吸速度の構成要素の分離, 第50回記念根研究集会, 2019年11月23-24日, 愛知県名古屋市.

田村梓, 小熊宏之, 藤本稜真, 栗林正俊, 牧田直樹 (2019) 長野県カラマツ林における細根とシュートの動態および色情報, 第50回記念根研究集会, 2019年11月23-24日, 愛知県名古屋市.

栗林正俊, 高橋善幸, 伊藤昭彦 (2019) 中部山岳域におけるカラマツ林のフェノロジー観測と陸域生態系モデルへの導入, 日本気象学会2019年度秋季大会, 2019年10月30日, 福岡県福岡市.

栗林正俊, 浜田崇 (2019) 中部山岳域における積雪期間の観測とモデリングの課題, 日本山の科学会2019年度秋季研究大会, 2019年10月26日, 神奈川県川崎市.

田村梓, 小熊宏之, 藤本稜真, 栗林正俊, 牧田直樹 (2019) 飯綱山カラマツ林における葉と細根のフェノロジー, 日本山の科学会2019年秋季研究大会, 2019年10月26日, 神奈川県川崎市.

栗林正俊, 高橋善幸, 伊藤昭彦 (2019) 長野県の気候変動と森林生態系の応答を評価する試み, 第60回大気環境学会年会, 2019年9月20日, 東京都府中市.

栗林正俊, 高橋善幸, 浜田崇, 伊藤昭彦 (2019) 積雪期間がカラマツ林の生態系の炭素収支に及ぼす影響のモデル解析, 雪氷研究大会(2019・山形), 2019年9月9日, 山形県山形市.

栗林正俊 (2019) 気候変動の適応策・緩和策に資する森林の活用に向けた取組, 大気環境学会中部支部総会・公開講演会, 2019年5月26日, 長野県松本市.

栗林正俊, 浜田崇, 牧田直樹 (2018) カラマツ人工林における林内と林外の気象観測値の比較, 日本山の科学会2018年秋季研究大会, 2018年10月27日, 長野県松本市.

講演会・シンポジウム等

栗林正俊 (2022) 陸域生態系モデルによるカラマツ人工林の炭素収支の気候変動応答, 第5回アジア域の化学輸送モデルの現状と今後の展開に関する研究集会, 2022年3月3日, オンライン開催.

栗林正俊 (2021) 森林のパワーを活用して目指す!長野県の2050カーボンニュートラル(別ウィンドウで外部サイトが開きます), エコプロOnline2021, 2021年12月, オンライン開催.

栗林正俊 (2021) 2050ゼロカーボンへの鍵:信州のカラマツ林, 山と自然のサイエンスカフェ@信州, 2021年11月10日, 長野県長野市.

栗林正俊 (2021) 気候非常事態と長野県の森林, 山と自然のサイエンスカフェ@信州, 2021年2月20日, オンライン開催.

栗林正俊, 伊藤昭彦 (2021) 長野県のゼロカーボンに向けたカラマツ人工林の炭素収支の気候変動応答評価, 第36回全国環境研究所交流シンポジウム, 2021年2月17日, オンライン開催.

栗林正俊, 伊藤昭彦 (2020) 信州カラマツの炭素収支の気候変動応答と森林管理の効果の評価, 信州自然講座, 2020年11月21日, 長野県駒ケ根市.

栗林正俊, 尾関雅章 (2020) 中部山岳域におけるカラマツ人工林の炭素収支の将来予測, 第47回長野県環境科学研究発表会, 2019年6月, 誌上開催.

栗林正俊, 尾関雅章, 浜田崇, 高橋善幸, 伊藤昭彦, 小熊宏之 (2019) 陸域生態系モデルによるカラマツ人工林のCO2吸収量の評価, 信州自然講座, 2019年11月30日, 長野県豊丘村.

栗林正俊 (2019) 中部山岳域のカラマツ林のフェノロジー観測に関する衛星観測の検証と応用, 第46回長野県環境科学研究発表会, 2019年6月14日, 長野県長野市.

栗林正俊 (2019) 長野県における気候変動とカラマツ林を活用した緩和策・適応策, 環境保全研究所友の会記念講演, 2019年4月13日, 長野県長野市.

栗林正俊 (2019) 長野県における気候変動とカラマツ人工林を活用した緩和策・適応策の検討, 第34回全国環境研究所交流シンポジウム, 2019年2月15日, 茨城県つくば市.

謝辞

 本研究は、(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20182R03)(別ウィンドウで外部サイトが開きます)により実施した。


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お問い合わせ

所属課室:長野県環境保全研究所 

担当者名:栗林 正俊

長野県長野市大字安茂里字米村1978

電話番号:026-239-1031

ファックス番号:026-239-2929

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