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更新日:2024年2月2日

林業総合センター

研究報告31号(2017)

高齢化した里山広葉樹林の萌芽等による早期更新技術の開発(p1-6)

清水香代・大矢信次郎・岡田充弘*

県内のナラ類を主体とした広葉樹林は大径化や高齢級化しており,これまで行われてきたナラ類幼齢林における萌芽更新と同様の方法で更新が可能かについては不明な点が多い。本研究では,県内の広葉樹林を構成する主な樹種であるミズナラ,コナラ及びクリについて根株径と樹齢に着目して調査を行うと共に,伐採時期と萌芽の生残率について調査した。その結果,伐採時期と萌芽残存率との関係は,6月と8月の伐採時期で最も萌芽残存率が低かった。また,ミズナラでは,根株径と伐採時樹齢の間に傾向は無かったが,樹齢50年生までは伐採2年後までの萌芽残存率が82%と高い結果となった。コナラでは,30年生までの樹齢ではどの根株径でも2年後までの萌芽残存率は約91%と高かった。さらに,ミズナラ及びコナラの両樹種でこれまで萌芽が発生しないと言われていた樹齢及び根株径でも萌芽が確認された。

キーワード:ナラ類,大径化,高齢級化,萌芽更新,伐採時期

広葉樹林化技術の実践的体系化研究(p7-16)

清水香代・小山泰弘

広葉樹林や針広混交林への誘導にあたって必要な施業方法を検討するため,カラマツ林の下層に植栽されたブナやカツラ及び天然生広葉樹について成長を調査した。その結果,低木層の広葉樹の成長は,上木を残存させることにより植栽木,天然生に関わらず停滞するため,低木層の個体が成長停滞する前に上木を伐採する必要があった。また,カラマツ人工林の樹冠下で亜高木層に達した天然生広葉樹の動態を明らかにするため,上木の皆伐及び上下木を間伐した結果,その効果は10年程度しか発揮されなかった。これらのことから,カラマツ人工林から広葉樹林への誘導の可能性は見いだされたものの,樹冠下に健全な広葉樹が生育する複層型の針広混交林は継続的に維持できないと考えられた。

キーワード:広葉樹林化,針広混交林化,カラマツ,樹下植栽,天然生広葉樹

コンテナ苗を活用した低コスト再造林技術の実証研究―長野県の緩傾斜地における車両系伐出作業システムによる伐採・造林一貫作業の生産性―(p17-26)

大矢信次郎・斎藤仁志*・城田徹央*・大塚大*・宮崎隆幸・柳澤信行*・小林直樹*

伐採・造林一貫作業は,伐出機械を再造林作業の一部に適用することにより,再造林コストの低減を図る作業として検討が進められている。本研究では,長野県内の緩傾斜地を中心とした林分において,車両系作業システムによる皆伐作業及び再造林作業の各工程の生産性とコストを明らかにすることを目的として,伐倒,木寄せ,造材,集材,地拵え,苗木運搬,植栽の各工程の生産性を調査した。高密度路網が整備された3地域のカラマツ林で伐倒から集材までの5回の皆伐作業を調査した結果,労働生産性は14.8~24.0立方メートル/人日となり,約20立方メートル/人日の生産性が得られた。グラップルローダによる機械地拵えは,人力地拵えを大きく上回る生産性を示し,地拵えコストを25~75%に低減する可能性が示唆された。また,フォワーダによる苗木運搬により,運搬コストが約73%に低減された。コンテナ苗の植栽工程は裸苗より生産性が有意に高かったが,植栽コストはコンテナ苗の価格が高いために裸苗の方が低かった。再造林作業の生産性向上とコスト低減を両立させるためには,コンテナ苗の低価格化が望まれる。

キーワード:車両系伐出作業システム,再造林,生産性,カラマツ,コンテナ苗

小面積で分断化したブナ林の取扱い―ブナ林の断片化がブナ集団の遺伝的多様性と繁殖に及ぼす影響―(p27-48)

小山泰弘、清水香代、岡田充弘*

長野県内のブナ分布を精査したところ、ブナの分布域とされる温量指数45から85の地域では降水量が少なくてもブナが分布し、県内のおおむね標高1,000m~1,500mの区域が、本来はブナの分布域と考えらえた。ブナの孤立林の種子発芽率は、豊作年では大集団と同程度だったが、並作では種子も少なく発芽率も低かった。さらにブナ林集団としての遺伝的な多様性も低下しており、種子採取源として不適だった。ブナ孤立林の一つである松本市牛伏寺ブナ林で種子生産状況を詳しく調べたところ、豊作年でも並作年でも種子生産に貢献している成木がごく一部だったことから、子世代の遺伝的多様性はさらに低下することが危惧された。そこで、種子による増殖だけでなく挿し木による増殖も試みたが、挿し木増殖は壮齢大径木では不可能で、増殖可能な個体は若齢の小径木に限られていた。上記の結果から、壮齢の大径木のみが残る孤立ブナ林では、種子採取も挿し木増殖も難しく、将来の保全に向けて課題が残された。

キーワード:ブナ、小集団、遺伝的多様性、発芽率、挿し木増殖

木質資源を利用したきのこ遺伝資源の維持管理方法の開発(p49-67)

増野和彦・丸田弥生子*・古川仁

クリタケ菌株の維持管理法に関して,以下の成果が得られ,木質資源利用の有効性を実証した。(1)「おが粉」を用いた菌床栽培で得られたクリタケ子実体からの再分離は,寒天培地による長期間の継代培養によって栽培特性の劣化した菌株の性能回復に有効なことを,栽培試験によって明らかにした。(2)再分離株の保存に際しても,寒天培地で保存するより,木質資源である「わりばし」や「おが粉」を用いた培地での保存が,特性の維持に有効なことを,栽培試験によってさらに示した。

キーワード:クリタケ,菌床栽培,菌株維持法,木質資源

原木きのこ栽培におけるイヤ地現象の研究(P69-76)

古川仁・鈴木良一*・加藤健一・片桐一弘

原木きのこ栽培の現場では,ホダ場を長期間連続使用すると,新たにホダ木を伏せても子実体発生量が低下する,「イヤ地」と呼ばれる連作障がいが経験上知られている。対象品目を原木ナメコとして,この「イヤ地」について調査研究を行い,次の成果を得た。

(1)原木ナメコ栽培を行っている生産者7名に,「イヤ地」について聞き取り調査を行ったところ,全員が「イヤ地」現象があるとし,その症状の多くは生育不良による収量減とした。また「イヤ地」への対応策は各生産者により異なった。

(2)寒天培地上でナメコと土壌抽出液に含まれる害菌を対峙培養したところ,ナメコの生育は抑制せずに,害菌の生育を阻害する方法として,寒天培地への木酢液添加が有効であった。

(3)ホダ場として連続使用された場所へナメコホダ木を伏せたところ、子実体発生量が対照区に対して有意に減少した。またホダ場土壌からはきのこ栽培にとって重大な害菌であるTrichoderma属等が高頻度で検出された。

(4)連続使用されたホダ場にナメコホダ木を伏せたところ,子実体未発生のホダ木が多発し,木酢液散布により,症状の軽減効果がみられた。

キーワード:原木きのこ栽培,連作障がい,イヤ地,ナメコ

スギ大径材から製材された心去り角材の乾燥試験(P77-90)

山岸信也・吉田孝久

長野県産のスギ大径材から心去りの角材(125×130×4,000mm)(以下正角材とよぶ)2本及び平角材(125×265×4,000mm)1本を採材して、これらの特性を把握するために目標仕上がり含水率を15%未満として人工乾燥を行った。正角材は約16日間の乾燥(総乾燥時間約384時間)、平角材は約22日間(総乾燥時間約520時間)で養生後平均含水率は正角材が約9.4%、平角材が約6.9%となった。モルダー加工後の品質基準は、正角材では満足したが、平角財では内部割れの発生を抑制する乾燥スケジュールの改良が必要と思われた。

キーワード:スギ、大径材、乾燥、心去り材

 

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所属課室:長野県林業総合センター 

長野県塩尻市大字片丘字狐久保5739

電話番号:0263-52-0600

ファックス番号:0263-51-1311

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