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更新日:2021年8月18日

林業総合センター

研究報告35号(2021)

効率的な皆伐作業システムの構築(p1-26)

髙野毅*、小山泰弘、百瀬浩行、大矢信次郎

県内人工林が資源として利用可能な収穫時期を迎え、皆伐再造林が進みつつある。県営林でも皆伐施業に向けた検討がされているが、現在事業の設計積算に用いている「素材生産設計システム」は、間伐作業に対応したシステムであるため、皆伐及び近年普及し始めている伐採から造林までの一貫作業システムには対応していない。そこで伐採造林一貫作業等の功程調査を行い、皆伐版の素材生産設計システムを調製した。

なお、事例が少ないために参考資料とはなるが、下層木が繁茂するカラマツ林を皆伐すれば下層木処理に一定の掛かり増しを検討する必要があること、広葉樹林を皆伐した場合の用材歩留まりは採材に時間をかけても15%に留まること、一般的な目立てを行えば、直径20cmのアカマツは10秒以内で鋸断できることが示された。

キーワード:皆伐再造林、設計積算システム、伐採造林一貫作業、下層木処理、広葉樹造材

高齢広葉樹林などの更新管理技術に関する研究(p27-38)

清水香代*・柳澤賢一

県内のナラ類を主体とした広葉樹林は大径化や高齢級化し,これまで行われてきたナラ類若齢林の萌芽更新と同様の方法で更新が可能かについては不明な点が多い。本研究では,県内の広葉樹林を構成する主な樹種であるミズナラやクリの伐採前の樹高,胸高直径若しくは根株径と樹齢に着目し,根株生残率及び萌芽枝の成長について調査した。合わせて,林内の亜高木層や低木層に生育する樹種や本数を調べ,天然更新が可能かを調べた。その結果,ミズナラの伐採5~8年後までの生残率は18~81%で差が大きかったが,どの調査地でも根株の平均生残率は経年と共に減少した。亜高木層や低木層には,樹冠を占有するナラ類の生育本数が少ない一方で,コハウチワカエデやコシアブラ等の耐陰性の高い樹種や,ツノハシバミやリョウブ等の亜高木性樹種の出現が多く,天然更新でかつ補助作業を行わずに再度ナラ類を主体とする林分を成林させることは困難と考えられた。

キーワード:ナラ類,大径化,高齢級化,萌芽更新,林床植生

 -長野県における土壌攪乱の持続性調査(PDF:2,374KB)-(p39-44)

大矢信次郎・戸田堅一郎・倉本惠生*・小山泰弘・鈴木秀典*

林内における機械走行が土壌や植生に与える影響を明らかにするため,2016年に霊仙寺山国有林のスギ皆伐地に設定した機械走行試験地において,土壌圧密化及び植生の経年変化を調査した。皆伐作業実施後の走行試験直後には,走行回数が1~3往復の試験区では土壌の圧密化が認められたが,11往復では泥濘化が発生したと考えられ,Nd値が低下していた。走行から2年後にはいずれの走行回数でもNd値は走行後より高くなり,11往復で最も顕著であった。また,機械走行地では走行直後は植生が衰退していたが,経年調査により機械走行地においても被度,植生高とも回復していることが確認され,3年後には無地拵え,隣接林内との差がなくなった。また,植生タイプは,5往復走行までは3年後までに高木性木本類の回復が認められたが,11往復では認められなかった。

キーワード:機械走行,土壌圧密化,植生,攪乱,持続性

地域に応じた森林管理に向けた多面的機能の総合評価手法の確立(p45-48)

戸田堅一郎

日本の人工林は半数以上が50年生を超え,各地で人工林の伐採が進められている。一方で,森林は木材生産以外にも様々な機能を有している。森林総合研究所では,森林の持つ多面的機能の総合的な評価手法の確立を目指し,10種類の機能について評価するモデルの構築を目的とする交付金プロジェクトを実施した。当センターは,このうち土砂崩壊抑止機能について,評価モデルの妥当性の検証を分担内容としてプロジェクトに参画した。対象地は長野県松本地域の東側山麓(547km2)とし,治山事業業務委託で作成された山腹崩壊危険度ランクについて,CS立体図の判読から作成した崩壊地ポリゴンとの比較によりモデルの妥当性を検証した。対象地の地質条件では,海成堆積物(北部フォッサマグナ)において崩壊の発生率が高く,河成堆積物と崩壊堆積物では低かった。山腹崩壊危険度ランクでは,ランクが上がるにつれて判読による崩壊跡地形と重複するセル数も増えるという結果となり,山腹崩壊危険度ランクを本プロジェクトの土砂崩壊抑制機能におけるモデル式の指標として用いることは妥当であると判断した。

キーワード:森林の持つ多面的機能,山腹崩壊危険度ランク,CS立体図,崩壊地

長伐期施業導入に対するカラマツ心腐病のリスク評価(p49-56)

柳澤賢一・戸田堅一郎・大矢信次郎・秋山巌*・西岡泰久*

伐期施業が進む長野県内の55~115年生のカラマツ林を対象にカラマツ心腐病被害の実態を把握し,素材生産における経済的損失額を検討した。その結果,伐根調査によるカラマツ心腐病の被害率は6.4~31.0%であった。カラマツ心腐病被害木はCS立体図から判読された傾斜の変曲点付近や滞水地形に多く,被害リスクの高いエリアの予測にCS立体図が活用できる可能性がある。カラマツ心腐病の中で,樹幹心材腐朽は根株心材腐朽に比べ腐朽進展長が長かった。特に,樹幹心材腐朽菌のうち白色幹心腐れを呈するカラマツカタワタケは,枯れ枝の跡や損傷から侵入したと推測され,長伐期化するほど被害リスクが高まると考えられた。根株心材腐朽による素材生産における経済的損失額は,林分の腐朽伐根本数率が17.8%で平均腐朽進展長が6.56m程度と仮定した場合,約11%の減収と試算された。白色幹心腐れを含めると経済的損失額はさらに増加すると考えられ,被害低減と経済的損失の軽減のためには,被害率が高いと想定される地形条件や過去の被害地を回避することに加え,間伐時の残存木の損傷等は最小限にする必要があると考えられた。

キーワード:カラマツ心腐病,白色幹心腐れ,被害分布,素材内腐朽分布,経済的損失額

長野県におけるマツタケ子実体の発生と気象条件の関連(p57-68)

古川仁・片桐一弘・増野和彦

長野県内6か所のマツタケ試験地で,地温・気温・降水量の気象観測,マツタケ子実体の発生調査を行った。その結果,子実体収穫初日前30日間の総降水量と発生量に正の相関がみられた。また,原基形成刺激温度は,高標高に位置する辰野町試験地は15~17℃程度,長野県南部の比較的温暖な豊丘村試験地は18~19℃程度と推定した。原基形成後の温度上昇,いわゆる暑さのぶり返しによる子実体発生不良は,2℃程度の上昇や,一時的な上昇では発生不良には至らなかった。

キーワード:マツタケ,原基形成刺激温度,初収穫日,降水量,気象条件

マツタケ菌感染苗木による林地でのシロ定着技術の開発(p69-82)

古川仁・片桐一弘・増野和彦・山田明義*・河合昌孝*・小林久泰*・山中高史*

マツタケ菌に感染させた苗木を林地植栽することで,シロが新たに定着する技術開発を目指した。方法は次の3通り,(1)自然状態で既に感染した苗木を移植,(2)既存のシロに苗木を植栽することで感染苗木を作製し,新たな林地へ移植,(3)実験室レベルで菌根合成苗を作製,作製した苗木を林地植栽。この結果,(1)の方法では樹高50cmのツガをシロごと大型植木鉢へ移植したが,シロ定着には至らなかった。(2)の方法では取り木が比較的感染しやすい傾向がみられたが,再移植先でのシロ定着には至らなかった。(3)の方法では,菌根合成苗根系から,林地植栽3年7か月経過後にもマツタケ菌が検出された。また,菌根合成苗のシロ直径は20cm以上とするものが作出でき,特に(3)の方法が今後の技術展開に有望であると結論した。

キーワード:マツタケ,感染苗木,シロ,取り木,菌根合成

ハナイグチ増殖現地適応化試験-気象条件がハナイグチ子実体発生に与える影響-(p83-92)

片桐一弘・加藤健一・増野和彦

ハナイグチの林地増殖技術を普及するために,県内6箇所に試験地を設け各地の傾向を調査するとともに,気象条件と子実体発生との関係についても調査を行った。その結果,試験地全体としては森林施業を行うことによるハナイグチ増殖効果が確認できた。また,除伐のみでもハナイグチの増殖効果を期待できることが示唆された。ハナイグチの子実体形成が始まるとされる,地温が17.5℃を下回る時期(発生刺激日)より前の約1か月間は,降水量が少ないほうがハナイグチの発生には良いことが分かった。また,発生刺激日以降子実体発生が終了するまでの約2か月間の地温は高温傾向で推移するほうが発生に良い影響を与えることが分かった。

キーワード:ハナイグチ,菌根性きのこ,林地増殖,森林施業,気象条件

カラマツ・スギ大径A材丸太の戦略的製品開発に関する研究(PDF:1,865KB)(p93-173)

林業総合センター木材部

戦後、拡大造林により植栽された人工林は、10齢級以上が50%を超える構成となり、本格的な利用期を迎えている。長野県内の民有林人工林の蓄積が最も多いカラマツは、集成材・合板・LVL等への利用が進み、B・C材の需要は拡大している。しかし、径級30cm以上の大径材から生産されるA材については、その有効利用が具体化されていない。

一方、広い開口部等が要求される住宅または非住宅等では、高ヤング高強度で構造計算が可能な構造材として、集成材、LVL等の改良木材(EW)の占める割合が多くなっている。しかし、これを国産の無垢材及び、無垢に近い質感を持った国産材新材料(例えば、接着重ね梁)等で実現することができれば、「現し」での木材利用によって、木の良さをPRし木材需要拡大を図れる可能性がある。また、信州木材製品に関する情報を総合的に収集、管理している信州木材認証製品センターが中心となり、地域のJAS製材工場(予定工場含む)や集成材工場が連携して大径A材丸太を有効利用することは、地域林業の活性化を図るばかりでなく、信頼性の高いJAS製材や建築基準法37条認定製品の供給を安定供給していくことで、地域木材産業の成長産業化を進める大きな力となる。

そこで、本研究課題では、大径材の大断面を活かした横架材としての利用を検討するため、大径A材丸太から「心持ち無垢梁桁材」、「心去り無垢梁桁材」、「枠組壁工法で利用される208材・210材」をそれぞれ主製品として製材し、さらに、これらの木取りの外周部より生産される高強度の平割材やラミナを利用した「Cタイプ接着重ね梁や高強度集成材」についてその材質評価を行った。

本報告では、これら三つの木取りに関連した六つ課題について報告する。それぞれの課題における結果の要旨については、本文中の課題ごとの章末にまとめとして記載した。

なお、本研究は、平成30年度林野庁補助事業「木材産業・木造建築活性化対策顔の見える木材での快適空間づくり事業のうちA材丸太を原料とする構造材等の製品・技術開発」により信州木材認証センターからの受託事業により実施した。

構成は次のとおりである。

1:大径A材丸太の木取り方法と製材及び製品歩止まりの検討・・・94-110

2:心持ち無垢梁桁材の乾燥及び強度特性の解明・・・111-123

3:心去り無垢梁桁材の乾燥及び強度特性の解明・・・124-139

4:208材・210材の乾燥及び強度特性の解明・・・140-152

5:心去り平割材を利用した高剛性・高強度梁桁材の乾燥及び強度性能・・・153-168

6:心去り無垢梁桁材のクリープ特性の解明・・・169-177

 

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所属課室:長野県林業総合センター 

長野県塩尻市大字片丘字狐久保5739

電話番号:0263-52-0600

ファックス番号:0263-51-1311

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