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更新日:2021年5月19日

林業総合センター

研究報告33号(2019)

レーザ測量データなどによる発生機構調査手法の高度化(p1-8)

戸田堅一郎

山地災害を未然に防ぎ被害を減らすためには,山地崩壊が発生しやすい場所を把握し,崩壊発生機構を理解した上で,適切な対策を講じる必要がある。近年,技術発達が目覚しいリモートセンシング技術を活用して地形や地質構造などの素因把握を行うことで,崩壊発生機構を効率的に解明する手法を開発することを目的とし,長野県内で発生した災害を事例に崩壊発生機構の調査を行った。災害調査事例として,2014年に木曽郡南木曽町梨子沢流域で発生した土石流災害と,2017年に飯山市井出川流域で融雪期に発生した山腹崩壊災害について発生機構の検討を行なった。

キーワード:崩壊発生機構,航空レーザ測量,干渉SAR,ドローン,CS立体図

原木シイタケ栽培の革新的な省力栽培技術(p9-18)

片桐一弘・鈴木良一・加藤健一・増野和彦

原木シイタケ栽培の労働負荷軽減を図るため,標準的な作業内容を見直し,省力栽培技術の開発を目指した。各種栽培試験の結果,以下の結論を得た。

封ロウ省略栽培は,富士103や森夏実など発生型が中温系の品種は,封ロウ省力栽培に適性がある可能性が示唆された。また,高中温性の品種の菌興706も適性があることが示された。封ロウを省略すると,発生初期に植穴からの子実体発生がほとんど無いことが総発生数が少ない原因と考えられた。

わりばし種菌を使った省力栽培は,植菌作業に係る作業時間は種駒の3分の1程度と大きく短縮されることが分かった。ホダ木の乾燥を防ぐ植菌・伏せ込み管理の手法を今後確立することで,わりばし種菌を使った原木シイタケの省力栽培が可能と考えられた。

仮伏せ省力化栽培は,ホダ木移動の省力化を図るため,林内で仮伏せを行った結果,有効積算温度は伏せ方により多少の違いがあることが分かった。有効積算温度が比較的高かった3段積みや,枕木を使用した伏せ方は,林内での仮伏せ方法として有効な伏せ方と考えられた。

キーワード:原木シイタケ,封ロウ,きのこ簡易接種法,仮伏せ

既存の栽培施設を活用した菌床シイタケビン栽培技術の開発(p19-34)

片桐一弘・加藤健一・増野和彦

エノキタケ等のビン栽培に慣れたきのこ生産者が,容易に菌床シイタケを栽培できるよう,栽培の全工程を既存きのこビンで栽培する,シイタケビン栽培技術の開発に取り組み,以下の結論を得た。

  1. 既存きのこビンを用いてシイタケを菌床栽培するには,ビン内部での子実体発生を防ぎ、ビン口部に原基を多数形成させることが重要と考えられた。
  2. 本試験で用いた市販11品種の中で,ビン栽培に適性があると考えられた品種は,北研600号,森XR1,北研603号,北研607-S号,北研73号の5品種であった。
  3. 栽培時における光を制御(遮断,照射)することによって,子実体発生量の増加効果があることが分かった。
  4. ビン栽培でも袋栽培と同程度の子実体収量が得られることが分かった。
  5. 培養時の通気性の改善や,栄養材の選択により,子実体発生量が増加することが分かった。
  6. 新たな容器として検討した,広口円筒容器は,高い子実体収量及び品質が得られる可能性が示唆された。

キーワード:菌床シイタケ,ビン栽培,培養,遮光,光照射

山菜による小さくともキラリと輝く山村産業創出技術の実証(p35-48)

加藤健一・鈴木良一・片桐一弘

当センターで開発したコシアブラとタラノキの栽培技術を実証するため,県内4地域(上田市,木曽町,塩尻市,池田町)に設置した栽培試験地で成長量及び相対照度を調査した。その結果コシアブラは,相対照度が100%の開放地では栽培に不適で,相対照度が40%以下では相対照度が高いほど生育が良好になる傾向が確認された。タラノキは,相対照度が高いほど生育が良好になる傾向が確認されたが,開放地の原野環境では頻繁な除草作業が必要であり,省力化して効率的に栽培を行うには,相対照度が12%から39%までの試験区が栽培に適していた。山菜の新たな栽培品目の開発では,「ハリギリ」が山菜として有用な品目であることが判明した。山菜による6次産業化事例の聞取り調査では,地域産の山菜原料の調達経費が高く,地域に豊富な山菜資源を十分に活用できていないことを課題とした。

キーワード:山菜,タラノキ,コシアブラ,6次産業化,栽培試験

カラマツ大径材から得られる心去り正角材(2丁取り)の乾燥特性及び強度特性の解明(p49-64)

吉田孝久,奥原祐司,今井信,山口健太,柴田直明*,田畑衛*,山内仁人*,山岸信也*

今後,生産の増産が見込まれるカラマツ大径材であるが,この大径材から製材された心去り正角材の乾燥試験及び曲げ強度試験を行い,その利用有効性について検討した。

試験の結果,(1)初期推定含水率がおよそ40~50%であったカラマツ心去り正角材の天然乾燥では,1~2年間の天然乾燥でその平衡含水率は16~18%程度となった。(2)14日間の90℃中温乾燥により,カラマツ心去り正角材は含水率12.7%(9.2~16.0%)に仕上がった。(3)9日間の高温セット乾燥では,乾燥による材面割れや内部割れはほとんどなく平均15%程度の含水率に仕上がったがバラツキは大きかった。(4)柾目荷重で行った実大材曲げ試験では,曲げヤング係数及び曲げ強さの平均値は,天然乾燥材が11.25kN/mm2,57.3N/mm2,中温乾燥材が12.74kN/mm2,51.0N/mm2,高温セット乾燥材が10.83kN/mm2,41.1N/mm2であり,天然乾燥材は全体の上位に位置していた。

キーワード:カラマツ心去り材,天然乾燥,中温乾燥,高温セット乾燥,曲げ強度

 心去り材を用いた新Aタイプ接着重ね梁の性能評価-乾燥試験と曲げ強度試験-(p65-84)

吉田孝久・今井信・奥原祐司・山岸信也*

カラマツ大径材から製材される心去り角材の利用方法として,これまでに開発を行ってきたAタイプ接着重ね梁への応用を検討した。本研究では,心持ち材を用いた三本重ねのAタイプ接着重ね梁において,中心材に心持ち材を用い,上下材に心去り材を用いた新Aタイプ接着重ね梁について,正角材の乾燥及び接着重ね梁の曲げ強度性能について検討した。

その結果,心持ち無背割り正角材及び心去り正角材の乾燥では,13日間の110℃高温セット乾燥により両者とも含水率はおよそ20%以下に仕上がった。心去り材のそりは平均で11.5mm/6mであり,ほとんどが木裏側の発生であった。また,曲げ試験では,曲げヤング係数(MOE)と曲げ強度(MOR)の平均値は,それぞれ12.05kN/mm2と41.0N/mm2であり,既往の心持ち材のみで構成された同断面のAタイプ接着重ね梁と比較すると(MOE=10.66kN/mm2,MOR=32.9N/mm2),新Aタイプの接着重ね梁はいずれも高い数値となった。

キーワード:Aタイプ接着重ね梁,新Aタイプ接着重ね梁,カラマツ,製材ラミナ,6m材

木製屋外構造物の劣化調査と維持管理技術の開発-設置後約30年を経過したカラマツ製遮音壁の性能評価-(p85-100)

奥原祐司・柴田直明*・吉田孝久・山口健太・今井信・山内仁人*

飯田IC南の中央自動車道沿いに1985年度末に試験施工されたカラマツ製遮音壁(200m長)について設置後約30年経過の状態を20年経過時と同様に調査し,次の結果を得た。(1)20年経過時の調査には確認できなかった遮音壁最上段の部材に局所的な腐朽が見られた。(2)音響性能試験は,現状のままでは遮音壁の設置基準(25dB/400Hz・30dB/1000Hz)を満たさなかったが,隙間対策を講じれば基準を満たした。(3)曲げ強度試験は,遮音板に求められる「150kgf/m2の風荷重に耐える強度性能」は十分に保持されていたが,20年経過時と比較すると強度性能は低下していた。

キーワード:カラマツ,遮音壁,劣化度,音響性能,残存強度

県産材による高性能・低コスト木製遮音板の開発-カラマツの反射タイプ2種類及びスギの吸音タイプ2種類-(p101-111)

奥原祐司・柴田直明*・今井信・吉田孝久・田端衛*・山内仁人*

2013から14年度において信州の木先進的利用加速化事業の中でカラマツ及びスギによる木製遮音板の開発に協力し,音響性能試験,曲げ強度試験,反狂性試験等を行った。その結果,中日本高速道路(株)が定める音響性能や風荷重(150kgf/平方メートル)の基準値をカラマツ製の遮音タイプ2仕様とスギ製の吸音タイプ2仕様が満たした。また,蒸気・圧力併用型木材乾燥機を使用して反狂性試験を実施したところ4仕様とも所定の乾湿繰り返し処理を実施しても,有害な狂い等は発生しなかった。さらに納品する遮音板(4仕様)の保存処理前の含水率及び薬液注入量と保存処理後の寸法及び含水率等を測定した結果,中日本高速道路(株)の基準に合致した。その後,4仕様の遮音板が中央自動車道の伊那ICランプ外周に計64m試験施工された。2015年度には改良型の音響性能試験を実施し遮音タイプの3仕様が基準を満たした。

キーワード:カラマツ,スギ,遮音吸音,音響性能,強度試験,

 

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所属課室:長野県林業総合センター 

長野県塩尻市大字片丘字狐久保5739

電話番号:0263-52-0600

ファックス番号:0263-51-1311

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