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更新日:2017年4月1日

環境保全研究所

(旧)自然保護研究所紀要第4巻別冊の要旨: 長野県自然保護研究所第一期「プロジェクト研究」の要旨 

 長野県自然保護研究所では、平成8年の開所以来これまで、多くの専門分野の共同でおこなう6つの「プロジェクト研究」を並行して実施してきた。このうち5つのプロジェクトについては平成12年度で終了し、報告書を作成した。ここではその成果の概要を報告する。

長野県自然保護研究所紀要第4巻別冊1: 長野県の多様な自然環境とそれに関わる社会環境の現状把握(平成8~12年度)

 

 長野県は全国的にみても非常に多様で豊かな自然環境を有する県である。このような自然環境の保護・保全を考えるためには、その基礎資料として自然環境の現状やそれに関わる社会環境を継続的に把握することが、つねに要求される。そこで、長野県自然保護研究所では設立当初の平成8年から12年までの5年計画のプロジェクト研究として、「長野県の多様な自然環境とそれに関わる社会環境の把握」を計画した。本プロジェクト研究では、長野県の北信・南信・中信・東信の4地域について、それぞれの地域で特徴的な調査地を設定し、その調査地の中で、動植物、地形・地質、自然地理、人文社会の各専門分野の立場で調査を行うこととした。ただし、社会科学の分野においては、全県120市町村すべてを対象に、環境行政に関わる施策についての調査を行った。

 北信については、長野県自然保護研究所が位置する飯綱高原を中心に、戸隠村から長野市浅川流域を含む千曲川までの地域を調査地とした。南信については、遠山川及び上村川流域(天龍村・南信濃村・上村)を調査地とした。この地域は、中央構造線が走り地質学的に特徴的であるだけでなく、落葉広葉樹林帯と照葉樹林が接したり、シカとカモシカが混生するなど、生物学的にも興味深い。中信については安曇野を対象とし、その源流域となる北アルプス、及び穂高町を中心とした農村地域を調査地とし、農村景観の変遷に関わる調査などをおこなった。東信については、この地域のシンボルともいえる千曲川と浅間山に焦点をあて、千曲川源流域から浅間山麓にいたる地域を調査地とした。

 各分野における調査内容は多岐にわたり、以下のようなテーマで行った。(1)4地域共通テーマまたは全県対象・長野県の地形と地質・長野県の植物分類地理学的研究・長野県のハナバチ群集:分布の概要とGISをもちいた生息地選好性の評価の試み・長野県下の自然環境に関わる諸制度、(2)北信・長野盆地における局地気候-冷気湖と山風の事例-・環境庁現存植生図の精度評価の検討-長野市北部の事例-・飯綱高原におけるノウサギの糞粒および足跡による生息状況調査・戸隠地域の古池ならびに種池におけるモリアオガエルの産卵環境・上水内郡戸隠村におけるツキノワグマと住民との関わり、(3)南信・下伊那郡上村におけるニホンジカとニホンカモシカの種間関係・ニホンジカ生息域におけるライトセンサス調査-下伊那郡上村の事例-・下伊那郡上村におけるニホンジカと住民との関わり、(4)中信・長野県中信地方の植生-飛騨山脈東側山腹における亜高山帯植生の分布-・旧版地図を用いた土地利用変化の抽出-安曇野地域の事例-・穂高町の農村における身近な生物の変化-聞き取り調査から-・安曇野地域におけるサギ類の分布について・1998年4月1-2日に長野県中部で生じた雨氷による森林被害の分布と被害要因-穂高町と堀金村の被害地域を事例として-、(5)東信・千曲川における非繁殖期の鳥類の分布状況について-川上村梓山~戸倉町万葉橋-・温暖化によって千曲川上流域のイワナ生息地点はどうなるか・GIS、現存植生図および重回帰モデルを用いたニセアカシア群落の分布推定・浅間山東斜面森林限界付近における表層地温観測・明治以降の浅間山麓における土地利用変化とその要因-御代田町、軽井沢町を事例に-

(プロジェクトリーダー 岸元良輔)

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長野県自然保護研究所紀要第4巻別冊2: 長野県の多様な自然環境に関する調査研究 -高山帯の多様な自然環境の現状把握- (平成9~12年度)

 

 高山帯は長野県の自然環境を特徴づける地域であるが、近年の登山者の増加や高標高に及ぶ開発にともない高山植物、高山植生ならびに野生動物の分布や生態に従来にない変化が生じていると考えられる。そこで、この研究では県下にみられる中部山岳高山帯の自然環境の現状の一端を把握することを目的として、高山帯の自然環境に関する基礎的研究をおこなう一方、高標高地への車道開設により、集中的な観光利用が行われている山域を対象に、車道開設後の自然環境に関する調査研究を実施した。

 まず、県下の高山帯の自然環境の概況として気象環境についてふれた。ついで「自然環境および生物群集の分布・生態に関する調査研究」として、高山帯での気象の通年観測、ならびに高山帯における訪花昆虫相に関する研究をおこなった。気象観測については、高山帯の自然環境に関する研究における通年気象観測の重要性と既知の観測資料の乏しいことを報告するとともに、飛騨山脈乗鞍岳と木曽山脈駒ヶ岳で着手した気象観測の結果についてふれた。一方、高山帯における訪花昆虫相に関する研究では、その概況を把握するとともに、高山帯の虫媒植物にとって主要な花粉媒介者であるマルハナバチについて、種組成、訪花頻度に関する調査を行った。また、マルハナバチによるコマクサの盗蜜についても報告した。

 「高標高地におよぶ車道開設後の自然環境に関する基礎的研究」では、調査対象地として1963年に標高2700mにいたる車道が長野県側に開設された飛騨山脈乗鞍岳(安曇村)を選定した。この研究では、車道開設に着目して過去に実施された各種の調査研究のモニタリング-車道周辺の植物分布および生態、野ネズミ類の垂直分布、畳平周辺のライチョウの生息状況に関する調査研究-を行い、現在にいたる自然環境の変化をとらえることにつとめた。

 車道周辺の植物の分布・生態に関する研究では、まず車道沿いにみられる低地性植物の高山帯への移入について車道(県道乗鞍岳線)開設の際に生じた法面(切土、盛土)上に成育する低地性植物の分布状況を調査し、過去の事例との比較研究を行った。1971年の調査事例と比較した結果、現在までにより高標高地へ低地性植物が侵入していることが明らかとなった。また、車道沿いのハイマツの年枝成長量についても、既存の調査事例と比較するため、過去20年間の年枝成長量を測定した。その結果、車道開設約10年後と同様に現在も、車道を境としてその上下部で年枝生長に違いが生じていることが確認された。

 野ネズミ類の垂直分布では、高山帯における山小屋や車道の設置など人為的影響により、ドブネズミなど人里に分布するネズミ類の進出が考えられた。そのため、亜高山帯以高の車道沿いの森林内や山小屋周辺などでシャーマントラップを用いて、ネズミ類の記号放逐を行った結果、アカネズミ、ヒメネズミ等が捕獲された。過去の同様の研究事例では、高山帯においてドブネズミが捕獲されていたが、今調査では人里のネズミ類は捕獲されなかった。

 ライチョウの生息状況では、乗鞍岳に生息するライチョウの個体数あるいはなわばり数を把握するとともに、ライチョウの生息状況に影響を与えている要因を、人為的な影響の有無とともに確認することを目的として、3年間にわたり乗鞍岳の畳平周辺(約200ha)で繁殖期を中心に、ライチョウの生息状況を調査した。ライチョウ雄のナワバリはハイマツの丈が低くパッチ上に分布している尾根上に形成される傾向が強く、3年間を通じて、雄のなわばり分布はあまり変化しなかった。また、同地域でのライチョウ雄のナワバリ数及びナワバリ雄の中で雌を獲得した雄の数は3年間を通じて増加した。一方、ヒナ数について見てみると、ヒナ連れ雌あたりの平均ヒナ数と総雌あたりの平均ヒナ数のどちらも1999年が最も高かった。ナワバリ数に影響する要因に関しては、1999年に、残雪分布を定期的に調査し、ライチョウのナワバリとの関連を確認した。

 本プロジェクト研究では、これらの研究に加え、山岳域の利用と自然環境に生じる変化に関連する研究として登山道沿いの植生が荒廃した山地高層湿原のモニタリングも実施してきた。中部山岳の高山帯域は、そのほとんどが自然公園等に指定され、現状変更等は厳しく制限されている。しかしその自然環境は今後も、地球温暖化をはじめ様々な要因により変化する可能性のもとにある。そして、そのような変化をとらえ、自然環境の保全に資するには、調査拠点および調査体制の整備と長期的な調査研究の積み重ねが必要となる。そうした調査研究体制の整備を考える場合、本プロジェクト研究は、通年気象観測など基礎的研究資料の収集の開始など、今後の継続的調査研究の端緒となろう。

(プロジェクトリーダー 尾関雅章)

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長野県自然保護研究所紀要第4巻別冊3: 冬季オリンピック関連事業の自然環境への影響と対応に関する調査研究(平成9~12年度)

 

慮に係わる試みと、その結果について総括を行った。具体的には競技会場や関連施設の整備にあたって実施された各種自然保護対策の効果等について幅広く検証を行い、可能な範囲で現時点における保護対策の評価と課題の抽出をおこなった。研究報告書の内容は大きく以下の1章から3章までの3つに分けられる。

 第1章は当研究所による「重点研究」である。これは個別のテーマについて当研究所のスタッフが分担し、重点的に研究をおこなった成果である。重点研究の各テーマは以下のとおりである。

 ・長野冬季オリンピックにおける自然保護対策の進展、・長野冬季五輪において試みられた緑化対策のモニタリング-表土復元後の植生変化を中心として-、・土地改変にともなう鳥類相への影響、・白馬村におけるギフチョウ生息地の保全:下層植生の刈り取りによる産卵密度への効果、・志賀高原のエコロード対策工における設置効果モニタリング、・河道切り替えに伴う河川生態系復元プロセス~アルペン男女ゴールエリア~、・長野冬季オリンピック開催にともなう大規模自然改変、・オリンピックが地域社会に与えた影響-白馬村を事例に-、・八方尾根の環境保全と望ましい利用のあり方

 第2章は環境影響評価報告書とモニタリング結果報告書の集約である。ここではいくつかの施設整備に当たって整備の事業主体が実施した環境影響評価とモニタリング結果について、それらの報告書をもとに要点と課題を集約した。

 以上の結果をもとに、第3章の「まとめと課題」において本研究の総括をした。そこでは、オリンピック準備の過程で、数多くの自然保護対策が進んだが、ある程度の効果がみられた対策がある一方で、目標とした効果があったとは必ずしもいえなかった事例があったことや、対応が不十分であったり、予測値以上の影響がみられた例など、いくつかの課題の指摘を行った。また、巻末には「資料」として、長野大会と自然保護に関わる主な出来事(年表)と自然保護対策の事例などを一括してとりまとめた。

 本研究における成果のなかで、注目される事項について、いくつか紹介する。

 まず、対策事例における重点研究では、・白馬村のギフチョウの保全対策として、ギフチョウの食草であるミヤマアオイの移植が行われたが、十分なデータが得られずその効果を検証することはできなかった。生息地の3カ年のモニタリングの結果、ギフチョウの保全のためには産卵場所としての環境の整備も重要であると考えられた、・志賀高原のエコロード対策工における設置効果モニタリングでは、ロードキル(野生動物の交通事故死)に関しては、対象とした車道全延長の平均発生頻度に比較してオリンピック関連事業で改良がなされた区間で発生頻度が高い傾向がみられたことから、人工の動物移動経路は野生動物に利用されてはいるものの、今のところロードキルの抑制という面では必ずしも有効には機能していないという評価となったことなどがあげられる。これらは、実施された保全対策のあり方や、対策後の保全管理という面で特に参考になると思われる。

 また、オリンピック全体としては、・長野大会での関連施設の自然改変の程度を比較すると、競技会場整備よりもむしろアクセス道路整備による自然改変の規模が大きく、これには長野周辺地域固有の立地特性と広域分散開催という2つの条件が大きく影響したことが指摘されたことがある。これは、長野大会における一つの特徴であるが、同時に今日のオリンピック大会の肥大化という問題にも密接にかかわる問題といえる。

 さらに、男子滑降スタート地点問題については、これをきっかけに表面化した八方尾根の自然保護問題についてあらためて掘り下げて論じ、これからの同地域の保護と利用のあり方について具体的な提言を行った。提言は「生態系への配慮」、「地域指定の再検討」、「総合的な自然保護対策」の3つからなり、ビジターセンターのような環境学習の拠点づくりを通した自然保護の推進をひとつのアイデアとして呈示した。同地域の今後の動向は、これからもなおオリンピックと自然保護問題を象徴する事例として意味を持ち続け、また日本の山岳地域の自然保護の進展という面でも注目に値すると思われる。

 環境影響評価における課題としては、保全対策としての「移植」対策の問題点の指摘や、猛禽類の調査方法等に関する課題、あるいは河川整備による河川生態系復元プロセスに関する課題などが、一部は上述の重点研究との関連で指摘された。また、トンネル工事にともなう酸性地下水の出水と生態系への影響の問題、周辺の井戸への影響の問題にも触れた。さらに、河川水質への影響として、複数の施設で予測値を大きく上回る濁水発生や水質への影響が報告されている例をもとに、水象や水文に関わる環境影響評価は、事前の予測と事後の対応に関して課題が多いということなどを指摘した。

 以上の結果をもとに、オリンピックの経験を今後に生かすため、以下の3つの提言を述べた。(提言1)対策事例の「標準仕様」の必要性。(提言2)長期モニタリングの体制の必要性。(提言3)自然保護研究における関係機関相互のなお一層の理解と連携と協力体制の強化。

(プロジェクトリーダー 富樫 均)

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長野県自然保護研究所紀要第4巻別冊4: 環境影響に関する調査研究 (平成9~12年度)

 

 開発事業が自然環境に与える影響を明らかにし、それを環境影響評価技術や保全対策技術に役立てるため、ゴルフ場が建設される前後の過程を追跡する調査を行った。

 開発による自然環境や社会環境への影響を科学的・総合的に予測・検討し、その結果を開発計画にフィードバックさせるためには、様々な角度から自然環境の変化をとらえ、追跡調査していくことが必要である。長野県では1998年(平成10年)3月に県環境影響評価条例が制定、公布され、1999年6月に全面施行された。それにより、調査すべき環境要素の拡大、環境に対する影響緩和(ミティゲーション)の考え方や事後調査の実施が明確化された。しかし、環境の要素は多種多様であり、そのすべてを調査し、モニタリングを通じて長期間の変化を観測することは実際的でない。そのため、適切な調査対象とモニタリング手法の選定が必要である。けれども生態系や生物群集が対象である場合、その中から環境の変化を適切にとらえる調査項目を選び出す手段も、その項目を追跡調査する汎用性のある方法も確立されていないのが現状である。

 また、山間部の多い長野県では、開発対象となる地域は比較的平野部に近い里山である。そのため、開発行為による自然環境に対する主な影響は、森林の分断化、孤立化による生態系や生物群集への影響と考えることができる。近年、自然環境に関わる開発に際して、野生生物を含む生態系全体の保護・保全のための「保全区域」が設定されるようになってきた。今回の調査対象地となったゴルフ場でも、生態的に重要な沢部を含む広い範囲を保全し、ワシタカ類の営巣可能な環境をより広く確保する目的で「生態系保全ゾーン」が三箇所設けられ、また計画地全体面積の約49%が残置森林として確保された。しかし、このような「保全区域」設定の効果やそれに及ぼす開発の影響についての知見はほとんど得られておらず、保全に必要な形、面積、場所の選定などに関わる基準あるいは方法が定まっていないのが現状である。したがって、保全区域の役割や設定をより適切にデザインするためには、保全区域の有効性を科学的に検討することが必要である。

 以上の点を踏まえ、森林の断片化の影響評価、事後評価のためのモニタリング手法の開発、そして、影響評価手法の開発について、調査・検討をおこなった。森林の断片化の影響評価については、ゴルフコース造成による林縁付近の微気象の変化とゴルフコース造成が森林植生に及ぼす影響、ゴルフコース造成が林縁部のノウサギの生息に及ぼす影響、ゴルフコース造成による森林の断片化と鳥類相の4項目について調査を行った。微気象の変化についての調査から、森林のコアエリアを保全する場合、光環境からみれば最低20m、地中の温度環境からみれば最低30mはバファーゾーンを設ける必要があることが提案された。植生に関する調査から造成の影響は林床ほど受けやすく少なくとも30m程度はおよぶことが推測された。ノウサギについては糞の密度調査を行ったが、林縁部での変化は特にみられず、造成地を全体的に把握するようなさらに広範な調査が必要と考えられた。鳥類の調査ではホオジロなどの林縁性鳥類が造成直後のゴルフ場内にすでに侵入していることが判明した。事後評価のためのモニタリング手法の開発については、竹筒トラップをもちいた管住性ハチ類の調査による生態影響評価手法の検討を行った。竹筒トラップの形状によりハチの種類数・筒の利用率にちがいがみられたが、昆虫相への影響を評価またはモニタリングする手法としては簡便であり、有効であると考えられた。影響評価手法の開発については、環境アセスメントにおけるGIS(地理情報システム)の適用手法の検討を行った。GISをベースにした意思決定モデルは開発と保全との調整手法として有用であり、様々なスケールの環境アセスメントや他の地域計画においても汎用性が期待できると考えられた。

(プロジェクトリーダー 堀田昌伸)

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長野県自然保護研究所紀要第4巻別冊5: これからの環境学習のあり方の検討と実践の記録(平成9~12年度)

 環境教育の中でも困難なのは「行動を喚起すること」だといわれることがある。事態を大きく変えるような働きかけを個人的に立ちあげることは確かに難しい。この点、すなわち、問題解決に関わるためにはどうするか、ということを、より多くの人たちに実現可能なかたちで示すことが、環境教育に求められている最大の課題の一つである。その解決策は、市民参加による集団としての問題解決の仕組みを社会的に構築することである。

 仕組みづくりの課題の一つは、環境教育とは何かを関係者の間で共有することである。そのためには、共通文書をもつことと、必要に応じて関係者の間で理解の差を確認しあい了解しあっておくことが有効である。共有文書の条件は、国際的なアジェンダを踏まえ、わが国の実状に即したものであることである。それにふさわしい文書としてここでは、平成11(1999)年12月の環境庁中央環境審議会答申「これからの環境教育・環境学習-持続可能な社会をめざして-」をあげた。

 さらに、全員参加の仕組みは、一人ひとりの今の個性を尊重することから始めるべきである。これは、一人ひとり「生活の質」や「人間の幸福」を考える環境教育の原則に照らして当然であろう。

 環境問題の解決は、地域の個別問題一つひとつを解決することを積み上げる、というシナリオが想定される。そのための感化や啓発の人間関係はすべて環境教育といってもさし支えない。

 以上のように、環境教育は対象も取り扱う事象も、また目標も、重点の置き方が従来の教育・学習とは異なっており、様々な価値の変更も含まれる。その変更も環境教育の課題である。

 日本においては、公害教育と自然保護教育が先に誕生し、環境教育を受け入れ育む土壌となった。また、かつては場所や特定種の保護問題であった自然保護問題には、1992年の国連環境開発会議以降、生物多様性の保全の問題が加わった。それは、身近な自然の保全問題を含み、価値を抜きには扱えない地域固有の文化の保存問題ともつながっている。

 その一方で、セクター間の連携を進める契機のひとつが、1987年~1991年の「清里環境教育フォーラム」であった。今後は、決定のプロセスに市民参加を保障しセクター間の連携を進める手法を効果的に取り入れていくことや、国内外を問わず、関係者の間でことばを共有することなどが重要な課題となってくるであろう。

 今回の報告の中には、研究所で実施した自然環境を科学的に理解するための学習会の事例の紹介、また、間接的にではあるが、市民の実践を調査した結果が含まれている。また、この間の研究スタッフのさまざまな経験に基づく問題意識の核心部分が、それぞれから述べられている。

 長野県の自然保護問題を具体的に解決していく上で多くの人々が協働する関係を築くことが求められているが、上述の具体例や研究員の視座が、その参考となれば幸いである。

(プロジェクトリーダー 陸 斉)

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所属課室:長野県環境保全研究所 

長野県長野市大字安茂里字米村1978

電話番号:026-239-1031

ファックス番号:026-239-2929 

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