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更新日:2019年4月26日

学びの県づくりフォーラムVol.1
これからの時代に必要な「学び」とは?~為末大さん、中室牧子さんと考える~

長野県では、本年度スタートした総合5か年計画「しあわせ信州創造プラン2.0」において、「学びの県づくり」を重点政策に掲げています。超高齢社会やAI・ロボットなどのテクノロジーの急速な発達により、私たちを取り巻く社会・経済環境は加速度的に変化しています。このような時代に必要な「学び」とは何でしょうか?阿部知事が元陸上競技選手の為末大さん、教育経済学者の中室牧子さんを迎えて、平成31年1月27日、長野市で「学びの県づくりフォーラム」Vol.1を開催しました。

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為末大さん講演「スポーツによる学び」

幸せになるために、人は学ぶ

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為末 人は、何のために学ぶのでしょうか。学びには、二つあると考えられます。一つは、役に立つから。何の役に立つかというと、学ぶことで自分自身の生活が改善され、可能性が広がります。ただテクノロジーの変化が激しすぎて、10年後にどんなスキルが必要とされるのかは予測できません。だから何歳であれ、その都度学んでいくことが大切になります。
 もう一つは、幸せになるために人は学ぶと考えられます。根源的に人間というのは誰かに何かをして喜んでもらうことで幸せを感じます。学ぶことで人の役に立ち、人の役に立つことで学びを楽しいと感じる。そういう学びのループを創り、みんなで学んでいくような、そんな土壌づくりが大切だと思います。

学びのなかにある、限界を突破する力

為末 ダーウィンの進化論の中に、「獲得形質は、遺伝しない」という説があります。自分の人生で獲得した物は次の世代に遺伝しない、ということです。私は数万キロ走ってきましたが、私の息子には私の練習で獲得した力は遺伝しないでしょう。そうすると、スポーツの世界ではなぜ今も記録は更新され続けるのか。約60年前の陸上界で、こんなことが起こりました。当時、1600mのレースには4分の壁があって、誰も破れなかった。ところが、ある選手が4分を切って優勝したところ、次々と新記録を樹立する人が出てきたのです。このように常識や思い込みに縛られていたことが、誰かが限界を突破した瞬間に急激に前向きに変化することがあります。学びにおいても、常識や限界を突破する力は、生涯にわたって起こるのではないでしょうか。そういう可能性を人間は秘めていると思います。
 スポーツでは、同じことを繰り返す「反復」、自分のプレイを大きな視野で捉える「俯瞰」、それを言葉にまとめる「要約」が重要とされます。さらに人に「伝える」も大切です。私の現役時代にも、自分が学んだことをまとめ、他の選手に伝えることで、一番学んだのは結局自分だったと気づいたことがありました。伝えることで新たな視点が得られ、学びはさらに有効になるのです。
 競技人生の中で大切にしていた言葉に、孔子の「これを知る者は これを好む物に如かず これを好む物は これを楽しむ物に如かず」があります。日本語にすると、「好きこそものの上手なれ」、そして「好きより楽しむことを大事にしなさい」ということです。究極の学びとは、こういう状態だと思います。楽しむために大切なのは主体的に関わること、それを人に伝えること。周囲との関わりの中で学びを体験し、学びの楽しさが伝播する、そんな状態が巻き起こるといいと考えています。

中室牧子さん講演「学力の経済学~教育に科学的根拠を~」

意欲を高めるために何が必要か

forumnakamuro中室 毎年大学の授業で、学生を二つのグループに分けて「鶴を折る」という課題を出しています。たくさん折ったグループは、報酬を受け取れます。当然ながら報酬ありのほうが頑張って折るので、鶴の数は多くなります。課題はもう一つあって、「自分の出身校を良くする方法」を考えてもらいます。いい提案をしたと評価されたら報酬が得られるグループと、どんないい提案をしても報酬の得られないグループに分けます。鶴の実験を見れば報酬ありのほうが高い評価を得ると思われますが、不思議と全く逆の結果が出るのです。この課題で実証したのは、単純作業は報酬によりパフォーマンスを上げるが、創造性を要する作業では逆に報酬はパフォーマンスを下げるということでした。では、報酬ではなく、意欲を上げるために何が有効となるのか。キーワードは、「内的モチベーション」と「非認知能力」です。
 非認知能力とは、学力テストとかIQテストで測定できるものとは異なる能力のことで、内的モチベーション=「学びが楽しい」と思えるような意欲も含め、近年では重要だといわれています。なかでもとりわけ大切なのは、「自制心」と「やりぬく力」です。
 ある実験で、4歳児を対象にマシュマロを食べずに待っていられるか検証したことがありました。自制心を持って待っていられた子どもは、小学生になっても問題行動が少なく、高い偏差値の大学に入り、卒業後は正規雇用される人が多いという結果が得られました。一方、やりぬく力が高い人には、上場企業の社長や一流のスポーツ選手などが多く見られます。人生の目標に向かって達成する力がやりぬく力であり、勉強ができても決してそれが高いとは限らないのです。

非認知能力は誰かに教わるもの

中室 では、自制心とやりぬく力、これら非認知能力を獲得するのは、どうしたらいいでしょうか。こちらも高名な学者が様々な検証結果から導き出したものですが、非認知能力とは「taught by somebody」、誰かに教わるものであるといっています。というのも、大学生を対象に高校卒業者と高卒認定試験資格者で分けて調査したところ、高校卒業者のほうが非認知能力が高いという結果が出たからです。学校という環境で、誰かに教えを受けることが重要なのではないか、ということです。
 非認知能力を学校で高めるためには、教員の質も重要です。日本では、全国学力・学習状況調査が毎年行われていますが、このテストでは個々の子どもたちの成績の変化幅は見られません。一時期の学力の水準ではなく、長期にわたり個々の子どもの能力を伸ばしてあげられるような教員を高く評価するべきだと思うのです。
 阿部知事が提唱する学びの県づくりで思い出されたのは、イギリスのトニー・ブレア首相でした。彼は政権の重点政策として「一に教育、二に教育、三にも教育」を掲げました。私は、教育を地域で成り立たせるためには、トップの意思決定、リーダーシップが大切だと考えています。ブレア首相は、エビデンスに基づく政策立案を重要視していました。研究者が実証したことを長野県の政策に有効に生かしていただくことも重要なことだと思います。

 

為末さん×中室さん×阿部知事 トークセッション これからの時代に必要な「学び」とは?

終わりがないことに真剣に取り組む

forum6阿部 講演会では、学びについて大きく三つ共通するテーマが出てきました。一つは、非認知能力。二つ目は、学びとは楽しむこと。三つ目は伝え、教え合うことが学びにつながるというものでした。非認知能力の獲得ということでは、スポーツの道を究められた為末さんは、いかがお考えですか。
為末 私も、非認知能力はスポーツによって育てられると思います。先ほどのやりぬく力については、選手個々の粘り強さもあると思うのですが、限界を設定しないことで思わぬ力を発揮することがあります。もちろん毎日ルーティンとして練習を繰り返すことはベースにありますが、今日は無理だということも明日は変化し、限界を突破できるのだと、それをスポーツから学ぶのも意義があることだと思います。
阿部 長野県では、信州やまほいく(信州型自然保育)を推進し、豊かな自然環境のなかで子どもたちは、友達との協調性や我慢強さなどを学んでいるのですが、中室さんのお立場から教育の現場で非認知能力を養うにはどのような取り組みが必要だとお考えでしょうか。
中室 非認知能力は自制心であったり、やりぬく力であったりさまざまなものがありますが、自制心を学校の中で養うには、きちんと計画を立てさせることが有効だといわれています。たとえば、夏休みの宿題のしめ切りを1カ月後に置くよりも、週末毎にチェックする。実験でも提出期限を細かく区切ることで、宿題の達成率が高くなったという結果が出ており、計画を立てて管理することが自制心につながると考えられています。
 自制心は完全に確立した計測方法があるので、教育現場でも子どもたちの現状を把握するうえでお勧めしたいです。一人ひとりを見極め、どのように指導すれば能力を高められるのか、まず把握・分析することから始められるといいと思います。
阿部 長野県でもエビデンスに基づいた教育行政を進めていきたいと考えています。先ほどはスポーツでも非認知能力を伸ばせるというお話でしたが、ではスポーツが苦手な人はどうしたらいいでしょうか。
為末 「終わりがない何か」をやることがとてもいいのではないでしょうか。スポーツでも芸術でも、学び、楽しめるものを見つけてほしいと思います。
中室 賃金へのプレミアムを高めるにはピアノがいいという研究があります。スポーツでも芸術でも共通しているのは、終わりがない、答えがないということ。限度がないことに取り組むことが、非認知能力を鍛える一つのヒントになるのではと考えています。

学びをシェアする 対面で教え合う

阿部 次のテーマの「学びを楽しむ」について、学びを楽しめる人、楽しめない人と分かれるわけですが、学びを楽しむための工夫やヒントはありますか。
為末 学びでもルーティン化すると、飽きがきます。また、自由度が高すぎると楽しむことも半減すると思います。程良い自由度の中で、学びもゲーム化すると長く楽しめるのではないでしょうか。
中室 学びの楽しみを見つける内的モチベーションを高めるには、重要な三つのキーワードがあります。一つは、成長。自分の成長が感じられる環境が必要だということ。二つ目は、自主性。三つ目は、社会の役に立つような高い目標です。これらを引き出すには、自由研究は最も適した課題です。少し高い目標を掲げて、自主的に行うことで成長できる。教員もそういう能力を引き出すスキルや技術を身につける必要があると思います。
阿部 三つ目のテーマの教え合い学び合う大切さについてですが、今はインターネットで何でも学べる時代です。しかし、非認知能力を養うには、人とつながる学びの環境が大切だということは私も痛感しています。どのような環境で、人と人との学びの関係性を作ればいいのか、ご提示いただけますか。
為末 今は、学ぶということがシェアしやすい時代だと思います。世の中には、有名人ではないけれど、人生のストーリーを積み上げ、その世界で業績を残してきた人がたくさんいます。長野県にもたくさんいらっしゃることでしょう。そういう人々の人生をシェアしながら教わるのも一つの学びだと思います。
中室 今はオンライン学習もありますし、そういうものを避けて通れない時代です。その一方で、先送り傾向のある子どもにはオンライン学習は全く身につかないという研究結果も出ています。今、経済学者の中で話題になっているのは、1対1のコーチングで成績が飛躍的に上がったという研究です。いくらテクノロジーを導入し、学校環境を整備しても、対面で教わる価値は失われないということだと思います。
阿部 一人でパソコンに向かって学ぶよりも、やはり人と人とのつながり、教えたり教えられたりということが大切だということですね。
 学びには、想像以上に広い概念があるということがわかりました。長野の県民性は真面目だと言われていますが、私はもう少し楽しむ要素を持ってもいいのかなと思っています。県政も皆さんが楽しみながら学び、内的モチベーションを高められるような「学びの県づくり」を進めていきたいと思います。本日は、どうもありがとうございました。

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学びの掲示板

来場者お一人おひとりのフォーラムにおける学びを見える化し、みんなの学びへとつなげるため、「学びの掲示板」を会場に設置。皆様の感想を付箋にお書きいただき掲出しました。「学びを楽しむ」、「学んだことを教え合うことの大切さ」、「非認知能力の重要性」などについて、多くのご感想をいただきました。

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為末 大さん Deportare Partners 代表
スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。 男子400 メートルハードルの日本記録保持者(2019 年3月現在)。 現在は、Sports×Technology に関するプロジェクトを行う株式会社Deportare Partnersの代表を務める。 新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。主な著作に『走る哲学』、『諦める力』など。


中室 牧子さん 慶應義塾大学総合政策学部准教授(2019年1月当時  現在教授)
慶應義塾大学卒業後、米国NY市のコロンビア大学にてPh.D. 取得、日本銀行、世界銀行を経て2013年から慶應義塾大学総合政策学部准教授、2019年より現職。専門は、経済学の理論や手法を用いて教育を分析する「教育経済学」。産業構造審議会等、政府の諮問会議で有識者委員を務める。著書にビジネス書大賞準大賞を受賞し、30 万部を突破した「『学力』の経済学」や経済学者・経営学者が選ぶベスト経済書第1位を受賞した「原因と結果の経済学」(津川友介氏との共著)。


 

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