報告書 〜共生社会の実現を目指して〜 平成24年11月22日 長野県「障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会」 目次 はじめに 1 第1章 研究会の設置目的 3   1 これまでの経緯 3   2 研究会の設置 3 第2章 研究会の検討経過 4 1 研究会の開催 4 2 障害を理由とした差別と思われる事例の募集 4 3 県民学習会の開催 5 4 関係団体等との意見交換 6 第3章 共生社会を目指す具体的な方策の構築に向けて 9 1 基本理念 9 2 差別等に当たる行為の定義付け 10    (1) 福祉サービス 11    (2) 医療 12    (3) 商品・サービス・不動産 13    (4) 教育 14    (5) 公共的施設・交通 15    (6) 労働・雇用 16    (7) 情報・コミュニケーション 17 3 事例分析を通じて浮かび上がった課題 19 4 差別等を解決する仕組み 21 5 効果的な施策や取組 26    (1) 差別等を未然に防止する取組 26    (2) 条例制定への思い 30 おわりに 32 附属資料 33 1 障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会 設置要綱 33 2 障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会 委員名簿 34 3 研究会の開催経過 35 4 県民学習会講演録 37 はじめに  1981年(昭和56年)の完全参加と平等をテーマとした「国際障害者年」、それに続く「国連・障害者の十年」の間における取組を契機として、国や地方公共団体の障害者福祉施策は着実に進展し、近年ではノーマライゼーションの理念の広がりにより、障害のある人が地域で当たり前に暮らすための福祉サービスや環境整備は徐々に充実してきました。  また、行政機関と共に、障害者団体を始めとする関係団体・機関等が行ってきた各種実践、啓発活動により、障害に対する社会の関心と理解も深まり、障害のある人の社会参加と課題解決に寄与しました。  しかしながら、依然として社会における障害のある人に対する理解は十分ではなく、障害があることを理由に不利益な扱いを余儀なくされたり、様々な場面で暮らしにくさを感じたりしている実態があります。  こうした不利益等の原因を、個人の機能障害や能力障害に求める従来の障害の基本的な考え方である医学モデルでは差別の実像を明らかにすることはできません。障害は社会の側にあり、変わるべきは社会であるとの社会モデルから見て初めて差別の問題が顕在化してくるのです。  障害のある人は社会を構成する一員として、障害のない人と等しく人権を尊重され、社会のあらゆる分野の活動に参加する機会が確保される必要があります。  障害の有無にかかわらず、県民誰もがお互いに人格と個性を尊重し、共に支え合う「共生社会」を実現するために、障害を理由とした差別を始めとした様々な障壁をなくしていかなければなりません。  誰もが病気にかかったり、怪我を負ったりする可能性があり、加齢に伴い身体機能が衰えることを考えると、障害のある人が暮らしやすい社会は誰もが暮らしやすい社会とも言えます。  長野県では1995年(平成7年)に「長野県福祉のまちづくり条例」が制定されましたが、これは1990年(平成2年)に成立した「障害のあるアメリカ人法」(ADA:Americans with Disabilities Act)に刺激を受けた運動の中で生まれてきた条例です。その後、更に、直接的に障害者差別の禁止のための条例制定を目指す運動が当事者の中に芽生え、県民参加の政策提案などが行われました。  その際には結実しませんでしたが、2011年(平成23年)7月に設置された「障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会」にはそうした10数年にわたる関係者の熱い期待が込められています。  この研究会では、障害の有無にかかわらず、誰もが安心して暮らすことができる社会を目指し、肢体・視覚・聴覚・精神・知的の障害のある当事者と生活に関わりの深い分野の専門家が一緒になって、幅広い視点から必要な仕組みについて検討を重ね、この報告書を取りまとめました。  障害を理由とした差別と思われる具体的事例が多くの県民から寄せられ、また、県民参加の学習会でも障害のある人から切実な声が寄せられました。そうした事例や声をベースにして、委員の知識や経験を活かして検討を進めてきました。  長野県ではこれまでも、障害のある人が自ら選んだ地域で当たり前に暮らすことができるようにするための先駆的な取組が、行政や関係者の手により進められてきました。  また、パラリンピック冬季競技大会やスペシャルオリンピックス冬季世界大会といった「共に生きること」の素晴らしさが実感できる国際的イベントが開催された歴史もあります。  1998年(平成10年)の長野パラリンピック冬季競技大会の総合プロデューサーを務めた久石譲さんからは、同大会の開催意義は「障害のある人もない人も、ともに生きることのすばらしさに気づくこと」というメッセージが寄せられています。  スペシャルオリンピックス日本名誉会長の細川佳代子さんは、2005年(平成17年)のスペシャルオリンピックス冬季世界大会・長野の閉会式で「今日はゴールでなくスタート。10年後、障害のある人たちがあらゆる場面で活躍することが当たり前の社会になっていたら、大会は成功と言える」というメッセージを発しています。  全国的にも誇るべきこうした経験や歴史を胸に、共生社会の実現に向けて県民が一丸となった取組を期待するとともに、この報告書がその一助となることを願っています。 2012年(平成24年)11月22日  障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会  第1章 研究会の設置目的 1 これまでの経緯  長野県では全国に先駆けて、2003年度(平成15年度)から県立の大規模な知的障害者支援施設「西駒郷」入所者の地域生活への移行等を手始めに、障害のある人が自ら選んだ地域で当たり前に暮らすための支援を行ってきました。この取組は、県内の市町村・社会福祉法人・NPO等にも深く浸透し、県全域の施設入所者の地域生活移行に発展しました。 地域で生活するためのグループホーム等の整備はもとより、就労支援事業所の拡充にも努め、更には、地域生活を支援するための相談窓口として、2004年度(平成16年度)に身体・知的・精神の3障害に対応する「障害者総合支援センター」を県内10圏域に設置し、相談員の配置等を行ってきました。  一方、国においては2006年(平成18年)12月に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」を2007年(平成19年)9月に署名するとともに、その後の条約批准に向けて必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の改革に取り組むため、2009年(平成21年)12月に「障がい者制度改革推進本部」を設置して、障害を理由とする差別の禁止に関する法律の制定等を含む検討に着手しました。  他の地方公共団体に目を向けると、なくすべき障害者差別を8分野で具体的に定め、差別解消に向けた仕組みを規定した「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」が2006年(平成18年)10月に成立したのを皮切りに、4道県等で同趣旨の条例が制定されました。  こうした状況を背景とし、長野県では2011年度(平成23年度)から、あるべき共生社会の実現に向けて更なる取組を進めるため関係者を集めた研究会を設置することになりました。 2 研究会の設置  研究会委員の構成は、「障害者の権利に関する条約」の交渉の際にも、当事者団体である各国NGOが唱えたスローガン「私たち抜きに、私たちに関することを決めないで(Nothing about us, without us)」の精神が活かされています。  障害のある人及びその家族が委員数15名のほぼ半数参加し、他に障害のある人の生活に関わりの深い分野(福祉、医療、教育、司法、雇用、市町村行政)の関係者及び公募委員からなる「障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会」が2011年(平成23年)7月に設置されました。  研究会では、障害を理由とした差別等をなくし、障害の有無にかかわらず誰もが安心して暮らすことができる長野県づくりを進める上で必要な仕組みについて、条例の制定も選択肢としつつ検討を行うこととしました。 第2章 研究会の検討経過 1 研究会の開催  研究会では次の3つの事項に取り組むことが、平成23年7月25日に開催された第1回研究会で確認されました。 @ 障害を理由とした差別等の定義付け  障害者基本法では、「障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為(以下「差別等」という。)」を禁じているが、差別等に当たる具体的行為が明確になっていないため、障害当事者等から「障害を理由とした差別と思われる事例」を収集し、これを基に県民が共通の認識を持てるように定義付けを行う。 A 差別等を解決する仕組みの検討  差別等が起きた場合、それを解決するための本県に合った仕組みを検討する。 B 解決する仕組みの効果的な実施方策の検討  障害者の権利を擁護するとともに、解決する仕組みが実効性あるものとなるよう、条例の制定を含め効果的な実施方策を検討する。  研究会では、上記@の検討に当たり、県民から広く募集した「障害を理由とした差別と思われる事例」について、幅広い視点から差別等に当たるのかどうかを分析し、差別等に当たる行為の定義付けを行いました。  また、事後的な対応策だけでなく、差別等が行われないようにすることが重要であることから、未然防止の取組についても検討しました。  平成23年7月25日に開催された第1回目の会議以降、各委員は事前に会議事項を検討し各自の意見を提出した上で会議に臨み、会議の場で更に議論を行ってきました。議論に際しては、障害のある人の視点と専門的立場からの意見を融合させることができるように留意しました。こうした会議が、平成24年11月12日まで計10回にわたって開催されました。 2 障害を理由とした差別と思われる事例の募集  研究会では、障害のある人及びその家族や関係者等から「障害を理由とした差別と思われる経験」(嫌な思いをしたこと、してほしくないこと、暮しにくさや不便さを感じたこと等)を募集し、それを基礎にして差別等の定義付けの検討を行うこととしました。事例募集は平成23年8月から10月までの3か月間実施し、電子メールやファックス、郵便等で最終的に726件の事例が寄せられました。  また、改善方法や障害のある人も障害のない人と同じように生活できるよう配慮や工夫をしてほしいことの提案も併せて記入してもらいました。 <分野別の提出件数> 分野 件数 分野 件数 福祉サービス 85件 公共的施設・交通 66件 医療 24件 労働・雇用 57件 商品・サービス・不動産 100件 情報・コミュニケーション 75件 教育 40件 その他 279件 ※ 障害のある人の生活の主な場面から設けた各分野における726件の事例は、長野県ホームページに掲載されています。 (URL:http://www.pref.nagano.lg.jp/syakai/fukusi/tomoniikiru/index.htm) 3 県民学習会の開催  障害のある人が感じている差別について県民理解を深めるとともに、「障害のある人もない人も共に暮らしやすい長野県づくり」への県民の関心を高める契機とするため、県民学習会を平成23年10月に県内4会場で開催し、約320人の方の参加がありました。  学習会では、国の障がい者制度改革の動向とその狙い等について内閣府職員による講演のほか、講師、研究会委員、地域の障害福祉関係者によるミニディスカッションを行いました。このディスカッションに参加したメンバー以外の委員も学習会に出席し、障害のある人の生の声を把握することに努めました。 (1) 開催状況 地区 開催日 会場 参加者数 南信会場 平成23年10月22日(土) 県飯田合同庁舎 約60名 中信会場 平成23年10月23日(日) 松本文化会館 約60名 東信会場 平成23年10月29日(土) 県佐久合同庁舎 約90名 北信会場 平成23年10月30日(日) 長野県庁 約110名 (2) 内容(4会場共通) @ 講演  演 題 「障害とは、障害を理由とする差別とは」 講 師 (東信・北信)東俊裕氏(内閣府障がい者制度改革推進会議担当室室長)         (南信・中信)金政玉氏(内閣府障がい者制度改革推進会議担当室政策企画調査官) A ミニディスカッション  テーマ 「障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくりに向けて」  参加者 講師、研究会委員、地域の障害福祉関係者 (3) 講演のポイント ・ 障害者に対する社会的障壁は障害のない人にとっての障壁にもなりうる。これらの障壁をなくしていくことは、障害のある人のためだけでなく、国全体をよくしていくことにもつながる。 ・ 誰もが差別は良くないことだと心の中で思っている。しかし、障害のある人もない人も差別の判断基準は持っていない。 ・ 条例を作る場合に大切なことは、何が障害を理由とした差別に当たるのか分かりやすい定義を作ること。次に、差別があった場合にどうするのかということ。 ・ 単に「差別はしてはいけない」と規定しても解決しない。相手と喧嘩しながらではなく、地域の中でしこりを残さずお互いに話し合うテーブルがあって、第三者も入って話し合いを通じてよりよい地域に変えていくシステムを用意していくことが必要かと思う。 4 関係団体等との意見交換  研究会で差別等の定義付けを行うに当たり、サービス提供者や雇用主等の立場及び障害者団体からの意見や考え方を参考にするため、関係する事業者団体等と研究会委員との意見交換及び意見照会を実施しました。 (1) 意見交換に協力いただいた事業者団体等 実施日 分野 関係団体等 H24. 9. 3 福祉サービス 長野県身体障害者施設協議会、長野県知的障害福祉協会 せいしれん(長野県精神障害者地域生活支援連絡会) H24. 9. 6 労働・雇用 長野県経営者協会、長野県中小企業団体中央会 長野県商工会連合会、長野県中小企業家同友会 H24. 9. 6 教育 長野市教育委員会事務局、麻績村教育委員会事務局 長野県教育委員会事務局関係課 H24. 9. 7 医療 長野県医師会 長野県歯科医師会 H24. 9. 7 商品・サービス・不動産 長野県食品衛生協会、長野県旅館ホテル組合会 長野県宅地建物取引業協会 H24.10.24 公共的施設・交通 長野県バス協会、長野県タクシー協会 長野電鉄株式会社 * その他に、連合長野(労働・雇用の分野)、県内のテレビ局・ケーブルテレビ事業者(情報・コミュニケーションの分野)、県内の鉄道事業者(公共的施設・交通の分野)に対して文書で意見照会を実施。 (主な意見の概要) ・ 専門家や支援者も気づかないまま差別的な扱いをしていることもある。その意味で、不利益な取扱いの定義付けについて、何が差別等に当たるのか理解できるように明確化することには意義がある。 ・ 相互のコミュニケーション不足により、一方的に思いこんでしまうこともあるのではないか。日頃からの良い人間関係づくりが重要。 ・ 事業者も様々な配慮ができるので、障害のある人も事業者側もお互いの事情をくむことで解決できることも多いのではないか。 ・ 差別等をなくすには、県民の障害に対する理解が進まないといつまでたっても状況は改善しない。県民の意識のレベルアップに向けて、より踏み込まないと効果は出ないのではないか。 ・ 施設のバリアフリー化の必要性は認識しているが、多額の経費がかかるため、経営状況により資金確保が困難な場合もある実情も理解してほしい。 ・ 現実的に合理的配慮を欠く施設・設備面での事例は少なからず存在していることは心得ているが、すべての事例を直ちに単独で改善できる経営状態にはないことから、行政等からの支援も含め、行政・住民・事業者が一体となり検討すべき課題と考える。 ・ 障害者雇用の促進について、企業だけが責任を持つのでは大変厳しい。まず障害者に対する社会の認識を変え、企業も雇用を促進し、行政も支援するといったような社会全体での仕組みづくりが必要ではないか。 ・ 不利益な取扱い等に当たる行為として例示する事例については、背景や状況を補足するなどして、誤解されないように留意してほしい。 (2) 意見をいただいた障害者団体 長野県身体障害者福祉協会、長野県肢体不自由児者父母の会連合会、長野県視覚障害者福祉協会、長野県中途失聴・難聴者協会、長野県障害者運動推進協議会 (主な意見の概要) ・ 障害者の多くは、歴史的、社会的制約のもとで「差別」されていることの認識や自覚が極めて希薄で、気づいていないことが多々ある。 ・ 健常者は、障害者(特に重度障害者)を自分たちとは違う人間であるといった意識を抱いていることが多いと思われるが、こうしたことが基本的な差別であると考えられる。一方で、障害当事者も障害の特性を社会に理解してもらうための努力が必要である。 ・ 相談窓口ができても、必要としている人に情報が伝わっていないことが多いので、行政機関や民生委員等の協力を得て、情報提供していく体制が必要である。 ・ 当事者が話し合って円満解決するのが理想だが、現実には利害関係が激しくなれば危険な状態にまでなることがあることに留意すべき。 ・ 障害者も一人の人間として自立するには、あらゆる差別を乗り越えることが必要である。一方で、あれもこれも差別だという意識が強くなると、窮屈な生活を送ることになってしまう。 (3) 意見への対応等  不利益な取扱い等に当たる行為として挙げている事例については、読んだ人に誤解されないよう、また分かりやすいものとなるよう、内容を補足するなどの見直しを行いました。  施設のバリアフリー化や障害の内容に応じた情報の提供、社員研修等によるサービス向上の取組及び資格試験において障害に配慮した実施方法を提供していることなどの積極的な取組が紹介されました。  一方で、障害のある人に対する配慮について、その必要性は十分に認識しているものの、経営状況によりバリアフリー化などのための資金の確保が困難であるため、なかなか対応できないという課題があるという意見がありました。  このため、研究会では、障害のある人に対する積極的な配慮が一層行われるよう応援する取組について、第3章の5(1)「差別等を未然に防止する取組」の中で提案しました。  なお、事業主等が行う建物等のバリアフリー化に要する経費に対する支援については、バリアフリー化を一層促進するため、何らかの支援策を県において検討すべきと考えます。 第3章 共生社会を目指す具体的な方策の構築に向けて 1 基本理念  本研究会が考える「共生社会」とは、障害の有無にかかわらず、県民誰もがお互いに人格と個性を尊重し、共に支え合う社会です。  その社会のイメージは次のとおりです。 ・ 障害があっても幸福と満足を感じて人生を送ることができる社会 ・ 障害があっても地域で学び、働き、暮らすことができる社会 ・ 障害があっても自己実現の機会が平等にあり、夢をかなえることができる社会 ・ 生活の中に社会的障壁*のない社会  共生社会の実現を目指す上で、差別等をなくし、障害のある人の権利を擁護することが極めて重要です。そのための取組は、次の事項を踏まえて行われるべきです。 ○ 障害のある人もない人も等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである。 ○ すべての障害のある人も社会を構成する一員であり、あらゆる分野の社会活動に参加する機会が確保されるとともに、地域生活を営む権利を有する。 ○ 差別等の多くが障害に対する無理解や偏見等に起因していることから、障害に対する正しい理解を広げることが必要である。 ○ 社会の構成員(障害の有無にかかわらず、すべての県民・事業者・行政等)が主体的に、かつ、相互に協力して取組を行うことにより「障害のある人もない人も共に生きる」という新たな県民文化を創造する。 * 社会的障壁…障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの。(障害者基本法第2条第2号) 2 差別等に当たる行為の定義付け  意識して差別等をしようとする人は多くはなく、障害に対する無理解や偏見等に基づく行為や、障害のある人を念頭に置かない種々の制度や環境を無意識に適用することで差別等をしてしまう場合が多いと考えられます。 このため、すべての県民や事業者等が、どのような行為が差別等に当たるのかということについて共通の認識を持つことができるように、差別等の定義付けを行いました。  差別等は、障害者の権利に関する条約や障害者基本法の規定等を踏まえ、次の二つに区分しました。 区  分 説    明 不利益な取扱い 障害を理由とした区別、排除、制限であって、障害のある人の権利や利益を侵害するもの。(ただし、正当な理由がある場合は除かれます。) 合理的配慮の 欠如 障害のある人が障害のない人と同じように生活するための配慮や工夫(均衡を失した内容でないもの又は提供する者に過度の負担を課さないもの)を「合理的配慮」とし、こうした合理的配慮を行わないこと。 この区分に従い、障害のある人の日常生活や社会生活の各分野における差別等に当たると考えられる行為は次ページ以下のとおりです。 この分野は、誰もが障害を理由とした差別等を身近なことと捉えやすいように、生活の主な場面から設けており、具体的には以下の7つです。 (1) 福祉サービス、(2) 医療、(3) 商品・サービス・不動産、(4) 教育、 (5) 公共的施設・交通、(6) 労働・雇用、(7) 情報・コミュニケーション 合理的配慮の内容は関わる人の状況やその場面により千差万別であるため、分野ごとに定義付けることは困難ですが、合理的配慮を欠く事例を記載しました。 また、各分野における合理的配慮として想定される例については、18ページにまとめて記載しました。  なお、記載している事例は障害のある人等から寄せられた事例を基にしているため、個々の事例の背景や経緯等の詳細までを踏まえたものではないことに留意が必要です。 (1) 福祉サービス @ 「不利益な取扱い」に該当する行為 ○ 正当な理由なく、障害を理由として福祉サービスの提供を拒否すること。(制限することや条件を付けることを含む。) ○ 正当な理由なく、本人の意思に反して福祉サービスを強制すること。 <差別に該当する行為の具体的事例> ・ 知的障害のある施設利用者に対し、施設職員が「言うことが分からないなら、勝手にしろ」と怒鳴るなど、障害特性に応じた適切な対応を取ることなく、サービス提供を怠った。 ・ 発達障害があることを理由にして、放課後の学童保育を受けることができなくなった。 ・ 希望していないのに施設への入所を勧められて、入らざるを得なかった。 ・ 障害福祉サービス事業者が利用者の個別支援計画を作成するときに、本人の希望を聞かずに作った。  正当な理由がある場合としては、次のような例が考えられます。 ・ 障害のある人の生命又は身体の保護のために、やむを得ない必要があると認められる場合。 (例) 入浴サービスの実施中に、本人が体調を崩したので、本人の身体を保護するためにサービス提供を中止した。 ・ 法令や通達等で、サービス提供を拒むことのできる正当な理由がある場合として挙げられているものに該当する場合。 (例) 当該事業所の現員からは利用申し込みに応じられない場合や入院治療が必要な場合。 ・ 障害福祉サービスが、障害者自立支援法の規定に基づく適切な相談支援のもとに提供される場合。 A 「合理的配慮の欠如」の事例 ・ 福祉サービスの利用申込みには専門的かつ複雑な書類の用意が必要だが、知的障害のある人が理解できるわかりやすい言葉での説明をしてもらえず、結局利用をあきらめた。 ・ 福祉サービスの制度について適切なアドバイスや説明がなく、本来受けられるはずのサービスを享受できなかった。 (2) 医療 @ 「不利益な取扱い」に該当する行為 ○ 正当な理由なく、障害を理由として医療の提供を拒否すること。(制限することや条件を付けることを含む。また、医療には治療方針等の説明をすることも含む。) <差別に該当する行為の具体的事例> ・ 脳性麻痺がある人が診察を受けようとしたら、「動かないでいられないなら診られない」と言われて、診察してもらえなかった。 ・ 医師が、知的障害のある患者には理解できないと思い、付添いの施設職員のみに説明した。  正当な理由がある場合としては、次のような例が考えられます。 ・ 障害のある人の生命又は身体の保護のために、やむを得ない必要があると認められる場合。 (例) 歯の治療において、本人がパニックを起こしてしまい、治療を継続すると口腔内を傷つける恐れがある場合に治療を中止し、後日改めて治療を行った。 ・ 法令や通達等で、医師が診療を拒むことができる正当な事由とされている場合。 (例) 医師の病気により診療が不可能な場合。 A 「合理的配慮の欠如」の事例 ・ 聴覚障害のある人が胸のできものの治療に行ったところ、説明が十分に伝わらないまま処置をされ、覚悟していなかったので大変痛い思いをした。 ・ 障害特性により長時間待つことが困難な患者が、診察順の繰り上げ等の何らかの配慮がなかったため、待ち時間の間にパニックが起き、診察を受けられずに帰宅せざるを得なかった。 (3) 商品・サービス・不動産 @ 「不利益な取扱い」に該当する行為 ○ 正当な理由なく、障害を理由として商品の販売、サービスの提供又は不動産の取引(賃貸や売却等)を拒否すること。(制限することや条件を付けることを含む。) <差別に該当する行為の具体的事例> ・ 知的障害のある人が飲食店に入ろうとしたところ、「障害を持った方はお客様のご迷惑になります」との理由で入店を断られた。 ・ 障害のある人が支援者とスーパーへ行った際、レジで客に景品を配っていたが、本人が支払をしたのに無視され、景品をもらえなかった。 ・ 盲導犬と一緒に入店したら、テラス席だけに限定された。 ・ アパートなどを借りようとする際に、視覚障害があることを理由に、なかなか契約に至らなかった。  正当な理由がある場合としては、次のような例が考えられます。 ・ 障害特性から生じた状況により、他の人に対して提供するサービスの本質が損なわれるおそれがあると認められる場合。 (例) コンサートや映画館などの観客が静かにすることが必要な場所で、障害の特性により大声を出してしまうことが続いた場合に、退席を求めた。 ・ 建物の構造上やむを得ないと認められる場合。 (例) アパートの構造上、車いすでは中に入ることができないため、賃貸契約の申込みに応じられなかった。 A 「合理的配慮の欠如」の事例 ・ 銀行や郵便局、レストランなどで、聴覚障害のある人が筆談での対応を求めても面倒がられて応じてもらえなかった。 ・ 盲導犬を連れて友人と外国音楽のコンサートに行ったが、友人の席と離れた盲導犬を横に置ける席に案内されたため、日本語字幕で表示されていた歌詞の内容を友人から説明してもらうことができなかった。 (4) 教育 @ 「不利益な取扱い」に該当する行為 ○ 正当な理由なく、本人の教育的ニーズを把握した上で障害の状態に応じた十分な教育を受けられるようにするために必要な指導や支援を講じないこと。(制限することや条件を付けることも含む。) <差別に該当する行為の具体的事例> ・ 重度の視覚障害のある児童が普通小学校に通う際に、安全のために保護者が学校内の活動に付き添うこと、宿題などのプリントは保護者の責任で点訳することなどを求められた。 ・ 運動会の徒競走で、足の不自由な児童の意向を聞かないで皆と一緒に参加させず、一人だけ別に走らせた。  正当な理由がある場合としては、次のような例が考えられます。 ・ 障害のある人の生命又は身体の保護のために、やむを得ない必要があると認められる場合。 (例) 心臓障害のある児童本人が学校登山への参加を希望したが、医師の意見も聞いた上で登山は困難と判断し、宿舎待機とした。 ・ 保護者からの願い出に基づき、病弱その他やむを得ない事由により就学困難と認められるため、学校教育法の規定により就学義務が猶予又は免除された場合。 A 「合理的配慮の欠如」の事例 ・ 試験で、音声だけで注意事項の説明や開始、終了の合図をされると、聴覚障害のある人には伝わらない。 ・ 肢体障害のある生徒が進学を希望する学校に、車いす使用者に対応できる設備(スロープ等)の設置を求めたが、理由の説明もなく断られた。 (5) 公共的施設・交通 @ 「不利益な取扱い」に該当する行為 ○ 正当な理由なく、障害を理由として不特定かつ多数の者が利用する建物、その他の施設や公共交通機関の利用を拒否すること。(制限することや条件を付けることも含む。) <差別に該当する行為の具体的事例> ・ プールを利用しようとしたが、発達障害があると意思疎通が難しいと言われ、  実際の様子を見ることなく利用を断られた。 ・ 旅客船に盲導犬を同伴して乗ろうとしたら、具体的な理由の説明もなく利用を断られた。  正当な理由がある場合としては、次のような例が考えられます。 ・ 障害のある人の生命又は身体の保護のためにやむを得ない必要があると認められる場合。 (例) 電車が混雑する時間帯に、人員不足により車いす使用者の安全を確保できない可能性が高いため、電車の利用を待ってもらった。 ・ 建物等の本質的な構造上やむを得ないと認められる場合。 (例) 文化的価値の維持や構造上の都合により、段差解消やエレベーターの設置が困難である建物について、車いす使用での入館を断った。 A 「合理的配慮の欠如」の事例 ・ エレベーターに点字の表示や音声案内の機能がないと、視覚障害のある人は利用しにくい。 ・ 駅などで、運行の遅れや事故の情報が音声放送だけで提供されると、聴覚障害のある人には伝わらない。 (6) 労働・雇用 @ 「不利益な取扱い」に該当する行為 ○ 労働者の募集や採用に当たって、正当な理由なく、障害を理由として応募又は採用を拒否すること。(制限することや条件を付けることも含む。) ○ 賃金、労働時間その他の労働条件、配置、昇進等について、正当な理由なく、障害を理由として障害のない人と異なる取扱いをすること。 ○ 正当な理由なく、障害を理由として解雇すること、又は退職を強いること。 <差別に該当する行為の具体的事例> ・ 障害者専用の求人募集を見て会社に問い合わせたところ、電話をかけたり受けたりすることが仕事の主な内容ではないのに、「耳が聞こえないと何かあった時に困る」、「電話ができないなら難しい」という理由で断られた。 ・ 知的障害のある人が飲食店に就職したが、雇用条件をあいまいにした雇用を継続され、強く訴えると解雇された。 ・ 発声の障害を理由に、20年以上勤務した会社から退職を迫られた。  正当な理由がある場合としては、次のような例が考えられます。 ・ 補助するための機器を用意したり、労働環境を整備したりするなどの配慮をしても、業務の本質的な部分を遂行することができないと客観的に認められる場合。 (例) 自動車の運転手の業務について社員を募集したが、運転することができないと認められるため、応募を断った。 A 「合理的配慮の欠如」の事例 ・ 昇進のために社内研修受講の必要があるが、手話通訳を付けてもらえないと、聴覚障害のある人は研修を受講できない。 ・ 採用試験で体力テストがある。義足を使っていることを採用担当者に話したところ「できる範囲でやってください。障害については配慮します」とのことだったが、種目や合否への影響の程度等は教えてもらえなかった。 ・ 精神疾患になったが、配置転換等の配慮もなく「させられるような仕事がないので辞めてくれ」と言われた。 (7) 情報・コミュニケーション @ 「不利益な取扱い」に該当する行為 ○ 正当な理由なく、障害特性に応じた情報提供の方法を講じないこと、又は障害のある人が用いることができる意思表示の手段を拒否すること。(制限することや条件を付けることを含む。) <差別に該当する行為の具体的事例> ・ 視覚障害のある人が会議に出席したが、印刷資料しか配布されなかった。 ・ 聴覚障害のある人が病院で筆談を希望したら断られ、口頭での説明が分かる人を連れてくるように言われた。  正当な理由がある場合としては、次のような例が考えられます。 ・ 障害のある人が用いる意思表示の手段について、同じ手段で応じることができないために意思疎通に支障がある場合。(ただし、合理的配慮に基づく措置を提供することができないか十分に検討する必要あり。) (例) 聴覚障害のある人から、手話による意思の疎通を求められたが、手話を理解することができないため、筆談などの他の方法とするように求めた。 A 「合理的配慮の欠如」の事例 ・ 講演会や研修などで、手話通訳や要約筆記が付かないと聴覚障害のある人は参加できない。 ・ 地方公共団体の広報紙の問合せ先に電話番号しか記載されていないと、聴覚障害のある人は連絡することができない。 ・ 災害時の避難所に関する情報が点字版や録音版等で作成されていないと、視覚障害のある人には分からない。 【 各分野における合理的配慮の例 】 分野 合理的配慮の例 福祉サービス 福祉サービスに関する情報提供、利用手続、設備や人員等の体制についての配慮や工夫等が考えられます。 医療 医療を提供するに当たり、障害者一人ひとりの障害に応じた方法で診療や説明等を行うこと等が考えられます。 商品・サービス・ 不動産 商品の販売やサービスの提供等に当たり、障害特性に応じて変更や調整等を行うことや障害特性に配慮した方法で情報を伝えること等が考えられます。 教育 授業等において、障害のある本人が理解できるように情報を伝えることや、障害の特性に応じた設備の整備等の環境を整えることなどが考えられます。 公共的施設・交通 建物等のバリアフリー化などの基礎的な環境整備のほか、様々な障害の特性に配慮した設備の整備などのハード面での措置や介助などのソフト面での措置等が考えられます。 労働・雇用 障害のある労働者が理解できるように情報を伝えること、障害の特性に応じた設備や機器等の労働環境の整備、労働条件の変更等が考えられます。 情報・コミュニケーション 講演会や会議などにおいて情報を伝える方法を工夫することや、行政機関などが適切な情報伝達の方法を用意すること等が考えられます。 3 事例分析を通じて浮かび上がった課題 障害当事者等から寄せられた「障害を理由とした差別と思われる事例」の分析を行う中で、直接に差別等として捉えることは困難であり、「不利益な取扱い」の定義付けにはなじまない事例がありましたが、こうした事例についても、改善を図るための取組が必要です。 (1) 障害のある人に対する不適切な言動等 障害のある人に対して心ない言葉をかけるなどの人の尊厳を傷つける行為を防止するために、障害に対する理解を一層促進する取組が求められます。 また、障害福祉サービス事業所等での異性がいる場所で着替えさせる等の行為については、倫理綱領の制定等による改善の取組が求められます。 <具体的事例> ・ 障害福祉サービス事業所等の職員が、知的障害のある年上の利用者の名前を「君」や「ちゃん」付けで呼ぶなどの子ども扱いをした。 ・ 医師から、リハビリの効果や限界の説明もなく、「これ以上リハビリをしても仕方がない」、「やっても意味がない」と言われた。 ・ 視覚障害のある人が買い物に行った時に、店員から「次からは目が見える方と来てください」と言われた。 ・ 地域の役員に持ち回りで就任することになっているが、視覚障害を理由に順番を外された。(意向を確認してもらえなかった。) ・ お世話になった親族の葬儀に参列したかったが、「地域の目が」と言われて断られた。 ・ 障害者施設の建設計画を地域住民に説明したら、「施設利用者が問題を起こす、女性が一人で歩けなくなる」と偏見視された。 ・ 障害福祉サービス事業所等で、異性がいる場所で着替えさせたり、入浴やトイレを異性の職員が介助している。 (2) 行政が提供する制度やサービス等の課題 福祉サービスが不十分であることなどの事例については、早急な改善が必要ですが、地方公共団体の財政事情等も考慮する必要があることから、できるだけ早期に改善が図られることが求められます。 <主な例> ・ 地方公共団体が手話通訳者や要約筆記者を派遣する事業において、予算の制約(負担の範囲、総額)により、派遣対象とならない場面がある。 ・ 障害のある人が地域で暮らすために必要な障害福祉サービスが乏しい地域がある。(障害福祉サービスの地域間格差が生じている。) (3) 障害のある女性が置かれている困難な状況 障害女性に関する性的被害、男性が女性を介助する異性介助、性と生殖の健康の権利、就労と収入の問題について、委員から問題提起があり、研究会では、障害女性の実情を把握するため、当事者を招いて話を伺いました。 これまでは、障害女性が置かれている困難な状況は社会に認知されてきませんでしたが、女性であり、なおかつ障害があることから被った深刻な実例が紹介されました。 障害女性が置かれている困難な状況に関して、「不利益な取扱い」として定義付けることができるかどうかについては、「障害があることと女性であることで二重の困難さがあることは確かではあるが、特に女性のみを取り上げるのではなく、性別を問わず人権を重視することが重要ではないか」という意見や、「性的な問題が絡むことが多く、事例として表に出にくい分野なので、課題として明確に据えて、県の取組を打ち出していく必要があるのではないか」といった意見が出されました。 性的被害のうち痴漢行為については犯罪に当たるものであるし、性と生殖については様々な立場からの主張があり、そうした主張を総合的に捉えた上で、障害女性の分野に特化して、どのような行為が不利益な取扱いに当たるのかを定義付けるのは困難であると考えられます。 しかし、これまで注視されることのなかった障害女性について、「障害があること」と「女性であること」により複合的に困難な状況に置かれる場合があることを啓発していくことが求められます。 4 差別等を解決する仕組み (1) 解決に向けた仕組みの全体像  なくすべき「差別等」の定義を明らかにして県民に明示するだけでは、現実に困っている障害のある人の思いに応えることはできません。  現時点では「障害を理由とした差別等」を受けたと感じた人が相談できる場所が分からないため、諦めて自分の胸にしまい込んでしまう人も多いと思われます。こうした方々の思いを確実に受け止めて解決するための仕組みを具体化することが求められています。  その際に念頭に置くべきことは、誰もが尊重し合い、思いやりを持って支え合う社会を実現するためには、差別等をした側とされた側というような対立関係に立つのではなく、お互いに分かり合う努力をしていくことです。  差別等をしたとされる人は日常的に障害のある人と関わりがあって、本人も意図しないうちにそうした行為をしてしまっていることも考えられます。この解決の仕組みが、障害のある人との関わりを避ける風潮を生みだしてしまうようなことがあっては、かえって逆効果です。  差別等が起きた場合には、同じ地域で共に暮らす者同士として「話合い」を基本として自主的に解決されることが望まれますが、紛争状態になった場合にも障害のある人が必要な主張ができ、公正な解決を図るための仕組みが用意される必要があります。  障害のある人が差別等を受けたと感じた場合にまず必要なのは、身近なところで相談できる窓口です。  この相談窓口が「差別等を受けたと感じた人」と「差別等をしたとされる人」の双方の話をよく聞いた上で適切なアドバイスを行いながら、当事者間の話合いを促すことにより、地域の中で解決を図っていくことを基本とすべきです。  障害の状態や地域の環境等によっては、「あまり身近すぎるとかえって相談しにくい」とか「地域の目が非常に気になる」と感じる障害のある人もいることに配慮することも必要です。  手話を言語とする聴覚障害者からの相談に対しては、手話通訳者による対応を確保するなど、できる限り障害のある人が相談しやすい環境整備に努めることも重要です。  次に、差別等の内容によっては、身近な相談窓口では解決を図ることが困難な場合も想定されます。この場合には司法的救済を求めることも考えられますが、より簡便で迅速な手続きとして、公平かつ専門的な見地から助言やあっせんを行う専門機関を設置して差別等の解決を図ることが有効です。  この専門機関については、既存の紛争処理の機関、例えば県障害者権利擁護(虐待防止)センターやほじょ犬相談窓口、法務省の人権擁護機関、消費生活センター等との連携をとりながら対応することが必要です。 (2) 相談できる対象者  障害を理由とした差別等を考える場合、相談できる障害のある人の範囲は平成23年に改正された障害者基本法の障害者の定義*に準拠し、できるだけ対象者は幅広く捉えるべきです。  また、相談する際には障害のある人本人の気持ちを最優先とすべきですが、本人が意思表示することが困難な場合があることや、特に出生から学齢期にわたっては家族ともども支援をしていくことが重要であることから、家族又は養護者も対象に含めて考えることが必要です。  なお、差別等を受けたと感じた人だけでなく、差別等を行ったとされた側からの相談も受け付け、障害を理由とした差別等に関して共に考えていく社会となるよう後押しすることが適当です。 * 障害者基本法における障害者の定義 障害者…身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害 (以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの。 社会的障壁…障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社 会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの。 (3) 具体的な仕組み @ 身近な相談窓口 ア 必要な役割  身近な相談窓口に求められる役割としては、以下の点が考えられます。  なお、極めて秘匿度の高い個人情報を扱うことも考えられるため、秘密保持の徹底が必要です。 ・ 差別等を受けたと感じた障害のある人と差別等をしたとされた相手方との双方の言い分を十分に聞き取り、事実の把握に努めること。 ・ 障害の特性によっては、相談窓口に出かけることが困難な場合もあるため、相談窓口で相談に応じるだけでなく、必要に応じて障害のある人を訪問して話を聞きとること。 ・ 当事者双方に対して、中立・公平な立場から、誤解があればそれを取り除き、情報の提供や助言等を行うことにより、解決を図るための調整を行うこと。 イ 窓口の配置  相談窓口の配置を考えるに当たっては、まず、障害のある人の「相談しやすさ」を考慮する必要があります。身近という観点からは、市町村ごとの設置も考えられるところですが、障害のある人からは、身近なところゆえに相談しづらいこともあるという指摘もあります。  なお、十分な相談を行うためには、相談する人と相談に対応する人とが直接顔を合わせて話をすることが重要ですが、最初の相談の申込みについては、電話やファックス、電子メールといった方法も利便性が高いと考えられます。  以上を勘案すると、県内の10の広域市町村圏単位に地域相談センター(仮称)を設け、専任の相談員を配置することが適当であると考えます。  具体的な設置箇所としては、長野県が他県に先駆けて整備した障害者総合支援センター*又は県保健福祉事務所を想定しています。 * 障害者総合支援センター…障害のある人の福祉サービス等の利用の援助や調整、就業に関する相談支援、障害児等の療育支援及び地域生活に関する相談支援等を実施。国・県・市町村が費用助成を行い、社会福祉法人等が運営。  障害者総合支援センターに配置した場合、地域における相談窓口としての実績を活かすことができるほか、様々な地域の福祉関係者のネットワークを活用することができるものと考えます。  一方、県保健福祉事務所に配置した場合には、関係行政機関や各種民間団体との連携を取りやすいとの指摘もありました。  また、既に県に設けられている、身体障害者補助犬の同伴や使用に関する相談窓口であるほじょ犬相談窓口や平成24年10月からスタートした障害者虐待防止法に基づく県障害者権利擁護(虐待防止)センターとの連携を密にしていくことが必要です。 ウ 地域における相談員  県内10の圏域ごとに一つ設置する地域相談センターだけでは、当該圏域内のすべての相談に対応しきれないことも想定されます。  また、地域で障害を理解し、障害者を支えるキーパーソンとなる者を増やしていくという視点も必要です。  そのため、圏域毎の相談窓口だけでなく、より身近な人に気軽に相談できる体制も用意する必要があります。  具体的には、障害者団体等が設置している障害者相談員や民生委員等が想定されますが、他にも相談支援専門員や障害のある人自身が相談に対応する方式(ピア・サポート)も検討すべきと考えます。  なお、こうした相談員の役割を担う人に対しては、障害についての理解を深めたり、差別等に関する相談への対応や当事者間の調整といった技術の向上を図るための研修が求められます。 A 助言・あっせんを行う専門機関 ア 必要とされる機能  上記@の身近な相談窓口での調整によっても解決することが困難な場合に、障害のある人からの申立てに基づき、次の事項を実施するものとします。 ・ 中立、公平な立場から、申立てに係る事案の関係者に対して必要な調査等を行い、助言やあっせんの必要性を判断すること。 ・ 必要性が認められた場合には、当事者に対して事案の解決に必要な助言やあっせんを行うこと。  ここでいう「助言」とは、当事者双方の言い分や客観的状況等を十分に把握した上で、当事者の一方又は双方に対して、中立、公平な立場から行う助言のことをいいます。  また、「あっせん」とは、当事者双方が出席してお互いの主張を述べ合いながら、話合いによる合意形成を支援することをいいます。場合によっては、あっせん案を提示することも考えられます。  助言やあっせんも双方の主張を言い合うだけの対立の場ではありません。相互理解を深めるための一つの機会と捉えるべきです。時間はかかるかもしれませんが、お互いの主張に耳を傾け、理解し合おうとする姿勢が求められます。 イ 配置  既存の相談機関である県障害者権利擁護(虐待防止)センターやほじょ犬相談窓口との連携を考慮し、専門機関は県庁の中に置き、障害者支援課が事務局を担うことが適当と考えます。  名称の例としては、長野県障害者権利擁護委員会などが考えられます。 ウ 構成員  専門機関の構成員としては、障害のある人の心情や実情を理解している人が必要であることから、障害当事者の参加が不可欠であり、可能であるならば構成員の過半数とするなど、より多くの参加が望ましいと考えます。  また、法律の知識や障害者相談業務の経験など、障害者の権利擁護に識見を有する人が加わることも必須と考えます。 B 実効性の確保  助言やあっせんを行った場合に、差別等を行ったと認められる者が助言やあっせんを正当な理由なく受け入れない場合も想定されることから、そうした場合に対応できる仕組みを用意しておくことも必要と考えます。  解決の仕組みの実効性を確保するため、差別等を行ったと認められる者に対して、差別等を解消するための必要な措置を講じるよう勧告することができる制度が必要です。  また、勧告を受けた者が正当な理由なく当該勧告に従わないときは、実効性を確保するための最後の手段として、一定の事項を公表することができる制度を検討すべきと考えます。ただし、公表については、悪質な事例であって社会的影響が大きなものなどについて限定的に行うような運用が必要であり、社会的制裁の効果等もあるため、公表の範囲や意見陳述の機会の確保などの手続保障について十分に検討する必要があります。 5 効果的な施策や取組 (1) 差別等を未然に防止する取組  これまで具体的に定義付けた差別等に当たる行為が、すべての県民や事業者等に「行ってはならないこと」として浸透し、差別等が行われない社会になることが最終的な目標の姿です。  こうした社会を実現するためには、何が差別等に当たるのかという判断の基準を県民等に提供することと併せて、行政、事業者及び県民等による差別等の未然防止につながる取組が必要です。  各種取組の基本的な考え方と主な取組の提案は以下のとおりですが、とりわけ県においては、取組の実施主体を整理し、効果的に実施されるよう各実施主体へ働きかけていくほか、国への提言をはじめ、必要性の高いものについて独自の施策を創設するなどして、率先して取り組むよう期待します。 @ 障害に対する理解の促進 (基本的な考え方)  県民から寄せられた「障害を理由とした差別と思われる事例」を見ると、障害に対する無理解や偏見等から生じているものが多いものと考えられます。  これまでも、行政機関や関係団体等により広報啓発が進められてきたところですが、まだ十分であるとは言えない状況にあります。  障害に対する理解促進の進め方としては、従来のような広く一般に対する広報啓発のほかに、社会生活の中で障害のある人と関わる方々に対する研修のように対象者ごとに応じた取組が効果的と考えます。  広報啓発は、心身の障害とはどのようなものかということに加えて、障害のある人を念頭に置かない物理的な障壁や制度、慣行、観念等の社会的障壁をなくしていくことの重要性についての内容とすることが適当です。 (取組の提案) ア 幅広い層を対象とする取組 ○ 広報・啓発資料の作成 ・ 障害の特性、障害のある人と接するときのマナーやコミュニケーションの取り方等を漫画などで分かりやすく紹介するガイドブックの作成。 ・ 差別事例及び差別の解消が図れた実例を紹介する事例集の作成。 ○ 研修会やイベント等の開催 ・ 障害のある人とない人が一緒に参加し、障害に対する理解を深めることができるイベントや障害のある人の地域生活を支援するボランティアの養成研修の開催。 ・ 一般県民の手話に対する理解を深めるための手話研修会の開催。 イ 障害のある人の生活に関わる方々を対象とする取組 ・ 各種サービスを提供する企業等(小売業、公共交通機関、医療機関等)の従業員を対象にした、障害の理解や障害のある人に対するサービス提供の好事例(車いす利用者への対応など)についての研修会の開催。 ・ 次世代を担う子供が学校において障害についての理解を深めることは、共生社会の実現につながるため、教職員を対象とした障害を理解するための研修会や障害者施設での実習の充実。 ・ 職場における障害の理解促進のため、従業員や事業主を対象として、障害のある人の体験談発表等を内容とする研修会の開催。 ウ 障害のある人とない人との交流促進 ・ 社会の中で、障害のある人もない人も共に生きることが当たり前という意識を普及していくためには、幼い頃から周りに障害のある人がいる環境が必要であるため、保育園、幼稚園時代から障害のある人と交流及び共同学習する機会の一層の確保。 ・ 小学校高学年から高校生などを対象とした養護学校や障害者施設での体験実習の一層の推進。 ・ 肩肘張らずに障害についての理解を深めることができるよう、障害のある人とない人との出会いの場などのイベントの開催。 エ 障害のある人を対象とする取組 ・ 共生社会の実現に向けては、障害のある人も障害についての理解を深めることが必要であるため、様々な障害のある人が参加し、他の障害について相互に知りあうことができるイベントの開催。 ・ より多くの障害のある人の悩み等を把握するため、地域における相談員等も参加した地域ごとの障害当事者会の開催。 A 既存制度の浸透や改善 (基本的な考え方)  身体障害者補助犬法により、不特定かつ多数の人が利用する施設における補助犬の同伴の受入れが義務付けられていますが、同伴を拒否される事例が後を絶ちません。このように法制度があっても社会の中に十分に浸透していない状況があることから、その原因の把握や既存の法制度を定着させる取組が必要です。また、差別を未然に防止するという観点からの既存制度の改善も求められるところです。 (取組の提案) ア 積極的な取組の応援  国では、障害のある人を積極的に多数雇用している事業所等を表彰していますが、このように法制度の遵守や障害のある人に対する配慮などの積極的な取組を応援する仕組みの実施が必要です。 イ バリアフリー 障害のある人の社会参加が進む中で、障害のある人が社会生活をしていく上での物理的な障壁(バリア)を除去するとともに、新しい障壁を作らないことが必要です。今後とも、バリアフリー化の取組を充実していく必要がありますが、多様な人を視野に入れつつ取り組むことが重要です。 このため、バリアフリーとともに、誰にとっても利用しやすいよう都市や生活環境を設計するユニバーサルデザインの理念に基づく取組を併せて推進することが必要です。 ウ 情報保障  障害のある人が円滑に情報を取得したり利用すること、意思を表示したり他人との意思疎通を図ることができるようにするための施策が重要です。  一例としては、聴覚障害のある人の意思疎通を仲介する手話通訳者や要約筆記者の育成や確保が十分になされるようにするための法整備について、国への提言や県独自の取組が求められます。 エ 福祉制度  障害のある人々のニーズに対して柔軟に対応する福祉制度の充実が重要です。一例としては、通学や通勤時の移動支援の拡充、他の障害と比較すると差異のある精神障害者に関する福祉医療制度や公共交通機関における運賃の割引制度の適用の範囲等については、国等への提言や県独自の取組の検討も必要です。 オ 政治参加  政治参加という民主主義の根幹にも関わる重要な分野において、障害のある人も障害のない人と同等の権利が保障されることが重要です。  政治参加には、選挙、国民審査、国民投票、住民投票、直接請求、請願、議会の傍聴、政治に関する情報の入手等があり、また、公職に就くことや各種の政治活動を行うことも含まれます。 障害のある人がこうした政治参加に関する権利を行使する際において、選挙の際に十分な選挙情報を入手できなければ適切な投票行動をとることができないといったように、特に障害のない人と同等の情報を保障されることが重要な課題であり、視覚障害や聴覚障害、知的障害等に配慮した方法での情報提供の一層の推進が求められます。 B 社会の意識改革 (基本的な考え方)  制度だけでなく、社会の構成員が共生社会の実現に向けて、障害のある人に対する配慮等について、県をはじめ事業者等が協働して取り組むことが求められます。 (取組の提案) ・ 県は、共生社会を目指すということを明確に宣言する必要があります。この宣言を基礎として様々な施策を展開すべきです。 ・ 県と企業が連携して補助具等の開発や普及に取り組むなどのように、障害者の生活のしやすさに向けた支援を推進すべきです。 ・ 聴覚障害のある人からは「邦画のDVDにも日本語字幕が必要」、「電化製品の動作状況が音声でしか確認できないのは困る」、色覚障害のある人からは「信号機を見たときに現在使われている色では判別しにくい」という声が寄せられています。ユニバーサルデザインやアクセシビリティを一層向上させるための取組が必要です。 C 障害者の生活基盤強化(教育・就労等) (基本的な考え方)  十分な教育や就労機会の確保等は、間接的に差別の解消の一助にもなるため、こうした取組の促進を図る必要があります。 (取組の提案) ・ 本人や家族が望む教育(地域の学校)を提供するための専門性を持った教員の配置や学校環境の整備 ・ インクルーシブ教育*の推進と特別支援学校分教室のニーズに応じた適切な配置 ・ 高等特別支援学校の単独設置と希望者の全入に対応できる態勢の確保 ・ 専門性を身に付けた教員、支援員の更なる採用と地域普通学校への配置 ・ ワークシェアの視点からの障害のある人の就労の促進 ・ 就労を支援している地域の障害者施設へのきめ細かな巡回支援 ・ 地域生活のためのグループホーム、ケアホームづくりへの支援 * インクルーシブ教育…人間の多様性を尊重しつつ、精神的及び身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者が差別を受けることなく、障害のない人と共に生活し、共に学ぶ教育。(障がい者制度改革推進会議による「障害者制度改革の推進のための第二次意見」(平成22年12月)から引用) (2) 条例制定への思い  研究会では、第3章の1に掲げる共生社会の構築のため、障害を理由とした差別等とは具体的にどういうことで、そのような事例が起こった場合に解決の仕組みはどうあるべきかについて、前述のとおり検討を進めてきました。  これらの内容が、障害の有無にかかわらず、共に生きる社会の構築に向けて県民全体で一緒に取り組んでいくことを明らかにしていくためには、地方公共団体として条例という形で法的な位置付けがなされることを強く期待するものです。以下にその内容を詳述します。 (障害者を取り巻く現状と課題)  昭和56年の「国際障害者年」設置及び昭和58年からの「国連・障害者の十年」の運動以降、行政や県民各界各層の取組により障害に対する理解は徐々に進んできていますが、30年余り経過した今も依然として多くの差別等が起きている実態があります。  誰もが差別することは良くないことだと考えているし、実際に起きている差別の多くは、障害のある人に対するあからさまな差別意識を持って行われているというよりは、障害に対する理解の不足や障害のある人を念頭に置かない制度や環境を意識せずに適用してしまうことが原因であると考えられます。  差別をなくしていくためには、障害に対する理解を広げ、深めていく取組の重要性は言うまでもありませんが、障害のある人に対する思いやりなどの心の問題として、個人の社会常識や行動規範に委ねるだけでは十分とは言えません。  障害のある人も、障害のない人と同じように権利を行使し、利益を享受できるようにするために、差別等の問題を権利の擁護と機会の平等という観点から捉えることが重要となっていると考えます。 (条例の必要性)  差別等に当たる行為を具体的に定義付けた上で、こうした行為は障害のある人にとって「不愉快なこと」、「してほしくないこと」として行われないよう県民共通のルールとしていくには、法的な位置付けが必要です。  また、差別等が起こった場合に備えて、当事者が相互に理解し合い、後々にしこりを残さない解決を図る仕組みが用意されているということを条例により打ち出すことは、障害のある人にとっては心強い支えとなり、差別等をしてしまう可能性がある人に対しても、共に取り組もうという強いメッセージとなります。  この仕組みは、私人間の紛争も解決することにつながるものであることから、実効性を確保するためには法的な位置付けが求められます。  こうした事項を内容とする条例を制定することにより、長野県が「共に支え合う共生社会」を目指すという基本姿勢を明確に打ち出すことが期待されます。 (罰則等に関する考え方)  県民の行為を禁止することになることから、罰則の必要性についても議論がなされました。当事者同士のしこりを残さない自主的な解決を図っていくことが条例制定の目的であることから、罰則規定を設けることは適当ではないとの意見が大多数でした。仮に罰則が必要とされるのであれば、国において法律で規定し、全国一律に適用すべきかどうかを考えるべきと考えます。  一方で、あっせんなどを行う専門機関において、自主的な解決に向けた協力をいただけない事案のうち特に悪質と認める場合には、勧告・公表制度を盛り込むことが必要と考えますが、この場合には、双方が主張をしっかり行える手続の保障が不可欠です。 (条例が目指すもの)  障害の発生原因には、先天的な疾病によるものから後天的・突発的な事象によるものまで様々あり、また社会にある制度、慣行、観念といった社会的障壁も存在する中で、誰もが障害を抱える可能性があります。  この条例が目指すものは、障害の有無にかかわらず、県民誰もがお互いに人格と個性を尊重し、「共に支え合う共生社会」の実現であることを再確認し、県が条例を制定する場合には、この趣旨を生かした内容、名称となるよう期待するものです。 おわりに  この報告書は、障害の有無にかかわらず、誰もが安心して暮らすことができる社会をつくるという目的のため、長野県として何をすべきかという観点から、必要な仕組みを取りまとめたものです。 障害のある人は、日常生活や社会生活の中で理不尽な体験をしても、「自分に障害があるのだから仕方がない」と権利の保障や機会の平等を求めることを諦めてしまうことが少なくありません。障害を理由とした差別等をなくし共生社会を築いていく取組は、障害者の人権擁護の観点から法的な位置付けの下に行われるべきであり、決して障害に対する理解促進を前提条件にしなければならないものではなく、両者は同時並行的に進めることが可能と考えます。 障害のある人も、障害のない人と同じように生活できるようにするための仕組みの実施を通じて、共に生きるという意識が県民の皆様の中に根づき、よりよい社会に変わっていくことを希望しています。  長野県においては、共生社会の実現に向けて、この報告書を基に必要な取組を十分に検討し、積極的に推進することを期待します。  県民の皆様には、障害のある人もない人も社会を構成する一人として、それぞれの立場で「何ができるのか、どうすればいいのか」を考えるきっかけとされ、積極的に取り組んでいただくことを切に望みます。  附属資料  1 障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会 設置要綱 (目的) 第1 障害の有無にかかわらず、誰もがお互いに尊厳を重んじて支え合い、安心して暮らすことができる社会を実現するために必要な仕組みについて、調査、研究及び検討等を行うため、障害のある人もない人も共に生きる社会を目指す研究会(以下「研究会」という。)を設置する。 (組織) 第2 委員は、障害のある人、障害のある人の家族、障害福祉関係者及び障害のある人の生活に関わりの深い分野の者等のうちから、知事が委嘱する委員15名以内をもって組織する。 (任期) 第3 委員の任期は、委嘱の日から2年間とする。 (座長及び副座長) 第4 研究会に座長及び座長代理を置く。 2 座長は、委員の互選により、座長代理は、座長の指名により定める。 3 座長は、会務を総理し、研究会を代表する。 4 座長代理は、座長を補佐し、座長に事故がある時は、その職務を代理する。 (会議) 第5 会議は、座長が招集し、主宰する。 2 研究会は、必要があると認めるときは、委員以外の者に研究会への出席を求め、その意見を聞くことができる。 3 会議は、原則として公開する。 (庶務) 第6 研究会の庶務は、健康福祉部障害者支援課において行う。 (雑則) 第7 この要綱に定めるもののほか、研究会の運営その他必要な事項は座長が定める。    附 則 この要綱は、平成23年6月16日から施行する。 2 委員名簿 氏名 所属等 備考 ◎ 島崎  潔 NPO法人ヒューマンネットながの ○ 池田  純 株式会社ジェイハート ○ 中嶌 知文 弁護士 足立 則男 上田市健康福祉部福祉課 H24.4〜 高木 英司 上田市健康福祉部福祉課 H23.7〜H24.3 市川 介 麻績村教育委員会 上野 芳雄 社会福祉法人長野県聴覚障害者協会 大池ひろ子 社会福祉法人絆の会 北村 忠三 短期大学非常勤講師 小平  隆 長野県手をつなぐ育成会チャレンジながの 小林  彰 NPO法人長野県相談支援専門員協会 小林 義章 大学生 新保 文彦 長野県自閉症協会 立岩  剛 株式会社八十二銀行 H24.4〜 浅沼 正輝 株式会社八十二銀行 H23.7〜H24.3 穂苅由香里 NPO法人ポプラの会 渡辺 庸子 医師 (◎座長、○座長代理)(敬称略、順不同) 3 開催経過 回 年月日 主な検討事項 第1回 平成23年 7月25日 (1) 研究会が取り組む事項 (2) 当面の作業の進め方(スケジュール) (3) 障害を理由とした差別と思われる事例等の募集 (4) 寄せられた事例の分析方法等 (5) 県民の理解促進に向けた取組み 第2回 平成23年11月21日 (1) 障害を理由とする差別等を考える学習会の開催結果 (2) 障害を理由とした差別と思われる事例等の募集結果 (3) 事例の分析等 第3回 平成24年 1月23日 ・ 障害を理由とした差別と思われる事例等の分析(福祉サービス、医療、商品・サービスの提供) 第4回 平成24年 2月 9日 (1) 「障害を理由として、差別することその他の権利利益の侵害」に当たる行為の整理(前回の確認) (2) 障害を理由とした差別と思われる事例等の分析(教育、建物及び交通、不動産の取引) 第5回 平成24年 3月16日 (1) 「障害を理由として、差別することその他の権利利益の侵害」に当たる行為の整理(前回の確認) (2) 障害を理由とした差別と思われる事例等の分析(労働雇用、情報の提供等、その他) 第6回 平成24年 5月21日 (1) 「障害を理由として、差別することその他の権利利益の侵害」に当たる行為の整理(前回の確認) (2) 「障害を理由とした差別と思われる事例」の分野分けの再検討 (3) 障害を理由とした差別を防止、解決するための取組及び仕組みの検討 (4) 今後の検討の進め方 第7回 平成24年 6月22日 (1) 「障害を理由として、差別することその他の権利利益の侵害」に当たる行為の整理 (2) 関係団体等との意見交換の実施方法 (3) 障害を理由とした差別を防止、解決するための取組及び仕組みの検討 第8回 平成24年 9月19日 (1) 障害のある女性が置かれている困難な状況 (2) 関係団体等との意見交換の結果 (3) 障害を理由とした差別等に当たる行為 (4) 差別等を解決する仕組み及び効果的な実施方策 (5) 研究会報告書の構成案 第9回 平成24年10月30日  研究会報告書(案)について 第10回 平成24年11月12日  研究会報告書(案)について