ホーム > 教育委員会の組織 > 心の支援課 > 生徒指導 > 指導資料一覧 > 指導資料No.47 登校できない児童生徒の理解と指導

ここから本文です。

更新日:2017年4月1日

指導資料No.47 登校できない児童生徒の理解と指導

 各学校での懸命な取り組みにもかかわらず、登校拒否児童生徒数は増え続けています。そこで、本号では登校拒否への具体的な指導について、信大教育学部長鈴村金彌先生に執筆していただきました。この指導法が全ての先生方の共通の財産となることを希望します。

平成3年3月5日 長野県教育委員会 生徒指導幹

目次

  1. 登校拒否の状況
  2. 登校拒否児童生徒の理解と指導

  登校拒否の状況

登校拒否児童生徒数の推移

 元年度の県下小・中・高等学校の登校拒否(学校嫌いを理由に年間50日以上の欠席)児童生徒数は、図1のとおり、小学生148人、中学生541人、高校生360人です。この15年間に小学生5.5倍(在籍比は4.5倍)、中学生8.1倍(同7.1倍)、高校生はこの10年間に2.8倍です。

登校拒否児童生徒の推移

年度

50

52

54

56

58

60

61

62

63

小学生

実数

27

39

43

40

50

82

94

85

143

148



0.02

0.02

0.02

0.02

0.03

0.04

0.05

0.05

0.08

0.09

全国

0.03

0.03

0.03

0.03

0.03

0.04

0.04

0.05

0.06

0.07

中学生

実数

67

90

118

151

269

369

376

397

514

541



0.08

0.10

0.14

0.17

0.28

0.37

0.37

0.39

0.51

0.56

全国

0.16

0.20

0.24

0.37

0.42

0.47

0.49

0.54

0.61

0.71

高校生

実数

     

128

227

232

272

312

351

360

県在籍比

     

0.18

0.32

0.30

0.34

0.39

0.43

0.43

登校拒否の態様

 表1に示すように、小学生は「情緒的混乱」が約6割を占め、「無気力」がこれに続いています。全国と比較して「無気力」「学校生活」等の割合が低く、「情緒的混乱」「その他」の割合が高くなっています。
 中学生は「情緒的混乱」「無気力」「複合」の順であり、全国と比較して「情緒的混乱」「学校生活」「複合」の割合が高くなっています。

表1 登校拒否の態様 単位 人( )%

区分

小学生

全国値

中学生

全国値

高校生

学校生活に起因するもの

3( 2.0)

( 5.0)

59(10.9)

( 6.9)

29( 8.1)

遊び・非行に起因するもの

0( 0 )

( 1.2)

28( 5.2)

(19.4)

23( 6.4)

無気力に起因するもの

23(15.6)

(28.6)

157(29.0)

(30.0)

83(23.0)

不安等情緒的混乱に起因するもの

88(59.5)

(40.3)

200(36.9)

(26.2)

119(33.1)

意図的な拒否

4( 2.7)

( 3.1)

24( 4.5)

( 4.7)

40(11.1)

複合しているもの

19(12.8)

(15.2)

65(12.0)

(10.5)

57(15.8)

その他(上記のいずれにも該当しないもの)

11( 7.4)

( 6.5)

8( 1.5)

( 2.4)

9( 2.5)

148 (100)

(100)

541 (100)

(100)

360 (100)

登校拒否に陥った直接のきっかけ

登校拒否児童生徒への指導結果状況


 

ページの先頭へ戻る

 登校拒否児童生徒の理解と指導

学校不適応対策委員会会長 鈴 村 金 彌

はじめに

 登校拒否の概念や指導法の要点については、生徒指導キーポイントシリーズ3.「学校不適応児童生徒に対する指導の在り方―学校不適応対策委員会集録1.-」の1 理論編の2 登校拒否の背景や原因、3 登校拒否の指導・治療の目標、4 登校拒否に対して学校・家庭として何をしなければならないか、及び3.事例編末尾の<手引>「登校拒否児童生徒への理解と指導のために」の項目に手際よくまとめられている。
 それゆえ、ここではできる限りキ-ポイントシリーズ3.の記載内容との無用な重複を避け、かつその記載内容を補いつつ、教師の指導法と子どもの行動の意味の読みとり方と具体的な指導法を中心に登校拒否児童生徒の本態について解説したい。(注、キーポイントシリーズ3.の記載内容を御覧になりたい場合はここをクリックしてください。)

登校拒否とは何か

 教師が登校拒否児童生徒を理解し指導するために第一に必要なことは、「登校拒否とは何か」を観念的に整理して把握しておくことである。ところが、最近登校拒否という言葉が乱用され、登校拒否の概念が曖昧になっている。これは、近年学校を欠席・遅刻する児童生徒の数が増加していること、欠席・遅刻の理由が多様化していること、欠席・遅刻の理由別に分類された名称が学問的に未整理であること、特に登校拒否という用語が社会的に過度に流通していることなどのためである。しかし、そのために教師が多様な欠席・遅刻児童生徒の中から登校拒否児とそうでない者とを見分けることが困難になっていることが指導上の第一の問題点である。
 そこで、多忙な教師の教育実践上の効率を考えると、まず典型的な登校拒否とは何かを理解することが基本である。もちろん、現実には登校拒否の諸特徴の外に多様な症状を副次的にもっている亜型の登校拒否児がたくさんいるが、登校拒否児の理解法と指導法を身に付ける為には、典型的登校拒否児の理解法と指導法を身に付けることが、基礎基本である。
 典型的登校拒否児童生徒とは、次の三条件を満たす欠席者である。

  1. 保護者(特に母親)は、本人に学校へ行くように一所懸命勧めている。
  2. 本人は、学校へ行きたい、または行かねばならないと思っている。
  3. 本人が登校できない、または登校を拒む理由は、現実世界に立ち向う気力の喪失という心理的理由である。

 これらの三条件について登校拒否児の理解と指導の視点から若干解説を加えると、次の通りである。

(1)保護者(特に母親)はもちろん、担任教師も、登校拒否症状の初期段階においては、本人に登校を勧める心持ちが強い。もしこの心持ちが欠けている場合、例えば、保護者や教師が「遅刻してもいいよ」とか「学校休んでもいいよ」などと本人に言っている場合は、典型的登校拒否には含めない。

(2)登校拒否の初期段階においては、夜になると明日の時間割りに合わせて教科書をカバンに入れるなど、本人が登校にこだわっていることを示す行動が観察される。このこだわりは登校拒否の初期段階ほど強く、次第にそのこだわり方が不自然な形に変質し、やがてこだわりが消失していく。これが登校拒否症状の典型的な経過である。このこだわり行動が欠けていれば、それは登校拒否ではない。それゆえ、このこだわり行動の特徴を詳細に把捉することが、登校 拒否の症状の進行状況を判断するひとつの目安である。
 また、登校にこだわることは本人が真面目で誠実である面を示しており、この点を十分理解してやることが登校拒否児に対する理解と指導の第一歩である。

(3)本人が登校できない、または登校を拒む真の心理的理由は、本人には自覚できない。それゆえ、本人に欠席の理由を聞いてもよいが、問い詰めてはならない。一般的に教師は理由がわからなければ対策を立てられないと思いこんでいるので、欠席の理由を問い詰めがちであるが、休むたびに欠席理由を聞かれるのが嫌で欠席日数が増加する症状もあるので留意したい。
 また、本人が申し出る欠席理由(頭痛・腹痛など)に真面目に対応してやることはよいが、それは真の理由ではないので、理由が解消しても登校拒否は解消されない。つまり、典型的登校拒否の真の理由は、明快に特定でき、対象化できるものでは無くて、児童生徒が毎日の現実世界―児童生徒の場合は学校生活がその中核である―に真正面から立ち向う感情や意志の力が低下した心理状態である。このような心理状態の中で本人や保護者や教師が登校することに強くこだわっている為に生じる様々の現象が、典型的登校拒否の本態である。

登校拒否症状の一般的経過

 典型的な登校拒否症状の進行と回復の一般的経過については、生徒指導キーポイントシリーズ3.の103頁によくまとめられている。現場の教師が日常の多忙な勤務の中で登校拒否児を指導する為には、細かな経過段階の設定は実用的でない。その意味で、上記103頁に示されているように、(イ)身症的症状の時期、(ロ)精神的葛藤と反抗的・暴力的時期、(ハ)退行的・孤立的閉じこもりの時期の3段階、症状の回復は(イ)日常生活立て直しの時期、(ロ)登校行動形式の時期の2段階、計5段階に分けるのは有用である。
 しかし、典型的登校拒否児といえどもその症状の進行と回復の経過は多様である。最も典型的な者は、上記5段階を記載してある順序に経過して治って行く者であるが、心身症的症状の時期が数年に及んで治らずに卒業してしまう者、末期的な退行的・孤立的閉じこもり期に至らぬうちに回復期の2段階を経過して治って行く者、いったん治った登校拒否が再発する者など様々の症例があり、登校拒否児は全員上記5段階を必ず経過するなどと考えてはならない。
 一般的に言えば、登校拒否の発症年齢が年少であればある程心気症的症状の期間が長く、かつ、その症状も多彩で濃厚に表われ、発症年齢が年長であればある程症状の進行が早く、短期間で退行的・弧立的な末期症状に陥りやすい。それゆえ、登校拒否児については、幼児期からの生育歴を調べておく必要がある。また、中学生や高校生の登校拒否の症状の進行は早いので、「もう少し様子を見てから」などと悠長に構えていると、治療のチャンスを逃がすことが多い。
 さらに、登校拒否児を継続して指導する為には、それぞれの時点における症状を的確に把握すること、及びその情報と指導経過を担任の交替や進学に際して的確に相手に伝えていくことが必要である。しかし、この点は、わが国の学校教育の様々な事情からあまりうまく行っていないように思われる。

登校拒否児の指導法

 登校拒否児の指導法は教育実践的な観点から言えば、次の二つに大別して考えるのが実用的である。ひとつは、医師・臨床心理学者・児童相談所員等のいわゆる専門家が用いる専門的指導技法であり、もうひとつは両親(特に母親)・担任教師・養護教諭等が用いる一般的指導法である。もちろん、後者に属する人びとが勉強して、専門家の指導を得ながら専門的指導技法を試みたりすることは大変良いことである。しかし、指導技法が有効性を発揮する為には、その実施者が自信をもって無理なく自然に技法を行うことが必要である。それゆえ、はじめて登校拒否児を取り扱う教師や両親はいきなり専門的指導技法に飛び付かずに、誰でも自信をもって自然な形で実施できる一般的指導法をまず実施するのが実用的である。しかし、一般的指導法は専門的指導技法に較べて治療効果があらわれるまでに時間がかかるので、退行的・孤立的な.閉じこもり期に入ってしまったような重症者や、2年以上も症状の改善が見られない長期化した者などは、家族から離して専門的な収容機関に入れ、専門家の指導にゆだねるのが良い。多忙な日常勤務の中で一人の教師が指導できる登校拒否児の数は1~2名が限度であるので、対応しなければならない登校拒否児が複数の場合は、たとえその症状がまだ初期的で軽度であっても、同僚や専門家等に積極的に援助を求めた方がよい。このような教育実践的視点から、ここでは登校拒否児に対する一般的指導法についていくつかの原則を述べ、専門的指導技法については、他の専門書にゆずることとする。

(1)指導の第一目標は、既に述べたように、登校拒否児が毎日直面しなければならない現実世界に立ち向う感情や意志の力をレベル・アップすることであって、学校へ行けるようにすることではない。その感情や意志の力がレベル・アップすれば、その自然な結果として、登校できるようになるのである。

(2)第一目標を達成する為の第一の重要事項は、欠席中の家庭生活が不規則にならないことである。登校拒否児は、欠席中に起床時刻が次第に遅くなり、昼頃まで寝ていたり、食事の時間や分量が不規則になったり、昼間も日中こたつにもぐっていたり、テレビばかり見ていたりするようになりがちである。
 また、登校拒否児は欠席していることが内心気になって、睡眠が浅く、昼間眠りこんだりして、睡眠のリズムを乱しがちである。このような生活のリズムの乱れを防止し、欠席中といえども規則正しい生活を送るように指導するよう母親に勧め、それを援助するのが教師の役目である。しかし、登校拒否児に欠席中の家庭生活を規則正しくリズミカルに送らせることはなかなか難しく、それを指導する母親の心理的負担はかなり大きい。例えば、決めておいた起床時刻にやっと起きてきたと思ったら、枕カバーの代わりに使っていたタオルを首に巻いたまま起きてくるなど、睡眠行動の一部分を心理的に引きずっていたりして、母親をいらいらさせるなどである。このような登校拒否児の行動の心理的意味を母親と話し合って、症状の理解に努めるのも教師の治療行動の一つである。 

(3)第一目標を達成する為の第二の重要事項は、睡眠・食事・排泄のような生命に直接関係する事項以外の仕事や課題を成し遂げる経験を欠席中といえども少しずつ増していくことである。これも、家庭で母親等が主として指導し、それに教師が助言していくべき内容である。特に、心身症的症状を訴える登校拒否児の初期段階に増した方がよい仕事や課題をあげると、(イ)夜具をたたむ、特に服にアイロンをかけるなど本人自身の生活行動、(ロ)洗濯・料理・掃除などの家事手伝い、(ハ)ジョギング・縄跳びなどの軽い運動等である。これらは、一般に(イ)(ロ)(ハ)の順で登校拒否児にとって実行の難しさが増す。それゆえ、この順序に段階付けて指導するのもひとつの方法である。また、(ハ)が大量にできるようになればなる程、現実世界に真正面から立ち向おうとする感情や意志のレベルがあがったと考えてよいであろう。同じ運動でも、チームプレーを必要とするスポーツができる段階に進めば、一層登校できる日が近づいたと言える。また、本人が希望すれば、旅行・アルバイト・読書・プラモデル製作などをさせてもよい。それらの過程で、受け身で消極的な行動パターンから能動的で積極的な行動パターンに移行する様子が見られれば、現実世界に立ち向う気力が次第に充実してきたと見てよい。ただし、この場合留意すべき点は、これらの仕事や課題を成し遂げる時間帯と場所である。登校拒否児の初期段階においては、朝が症状が最も悪く、午後になって学校の終業時刻が近づくにつれて症状は軽くなり、夜になると明日は学校へ行くのではないかと思われる程症状は良くなり、休日は、すっかり普通の状態にもどってしまうものである。また、登校拒否児は学校、特に教室に近づく程、緊張と不安が高まり、症状は悪化するものである。換言すれば、登校拒否児は登校しなければならない時間帯と登校を義務付けられている空間に居ることが症状悪化の鍵となっているのである。それゆえ、本人が上記の仕事や課題を成し遂げる時間帯が朝に近い時間帯であればある程価値があり、夕方から夜にかけての時間帯であったり、休日であったりする程価値が低いのである。このような留意事項に配慮しながら、登校拒否児の仕事や課題を成し遂げる気力のレベル・アップを図ることが必要である。

(4)第一目標を達成する為の第三の重要事項は、教師が登校行動を「徐々に」形成する具体的なプランを立てることである。このステップに分け、そのひとつずつを小目標として達成して行き、最後には登校行動全体が形成されるように小目標の階層を作るところにある。表1は、そのひとつの例である。これを見ながら、自分の受け持っている登校拒否児の症状に合った登校行動形式のプランを立てることが必要である。

表1 家を出て教室の入口まで行けるようになる為の小目標階層
  1. 鞄を持たないで、玄関の外へ出れば良い。
  2. 鞄を持って、玄関の外へ出るだけで良い。
  3. 鞄を持たないで、家から学校までの途中にある適当な目標点まで行けば良い。この目標点は、電柱も、ポストでも、お菓子屋でも何でも良い。家からの距離が近い程、目標への到達はやさしいので、目標を家から次第に遠くにあるものにする。学校に関しても、校門・下駄箱・保健室・教室の入口などと小刻みに目標を設定してみると良い。
  4. 鞄を持って、上記の目標点に順次到達できるようにする。

 表からわかるように、一遍に登校行動を形成しようなどと思わず、小刻みに目標を達成し、最後に登校行動が完成すれば良いと考えることが重要である。もちろん、子どもの状態を見ながら、場合によっては途中の目標段階をさらに小刻みにしたり、思い切っていくつかの目標を飛び越えたりしても良いが、指導経験の乏しい教師は、目標階層の作り方、目標の飛ばし方、目標の修正の仕方などについては、専門家の助言を受ける方が良い。
 教師が目標階層を作るのに役立つ為に、経験の乏しい教師が思いつかないような小目標の例を参考までにいくつかあげると、次の通りである。

  • 休日に登校し、校庭で遊ぶ。
  • 休み時間に登校し、給食を食べて帰る。
  • 下駄箱に日記など家庭でやった学習の成果を入れて帰宅する。教師はその成果を添削して下駄箱に入れておく。
  • 保健室に行き、養護教諭と話して帰宅する。
  • 登校しても、学校で飼っている小動物の世話や花壇の花の手入れだけして帰る。
  • 級友とは別な部屋で担任以外の先生の授業(または指導)を受けるなどである。

(5)最後に登校拒否児と会って話す時の問合いのとり方について、若干解説しておく。
 教師が登校拒否児の家を家庭訪問しても、本人は障子の向こう側にいるのに、絶対に教師の前には出てこないことがるるある。何回家庭訪問してもこんな目に会うと、教師はどうしたらよいかわからなくなりがちである。そのひとつの原因は、登校拒否児と会話する時に必要な間合いがわからないからである。
 そこで、登校拒否児と対面して話し合いをする時の間合いのとり方を物理的な距離、両者の位置関係、視線、間合いをとりもつ物品の四つの視点から簡潔に解説しておく。対話の場合の間合いの基本は、お互いに気まずい思いをしない範囲でできるだけ近い距離をとるということであるが、それが成立する為の諸条件は、次の通りである。

(イ)対話の間合いの基本は、約80cmである。
 これより接近すると、圧迫感やなれなれしさを感じさせ、これより離れる程よそよそしさや形式的儀礼的感じを与えやすい。しかし、登校拒否児が教師と話し合う時は、聞いてもらいたい気持ち、わかってもらえない苦しさ、時には話したくない気持ちなどが心の中で入り乱れており、また、教師の方も何から話題にしてよいかわからなかったり、何とかしなければと焦ったりする気持ちが入り乱れているので、教師がはじめから間合いをうまくとることはなかなか難しい。しかし、およそ80 cm 位を目処として間合いを決めるとよい。

(ロ)登校拒否児と対話する場合の教師の位置は、はじめは真正面でない方がよい。
 真正面は登校拒否児に圧迫感を与えたり、叱責されている感じを与えるので、少し斜め方向や横方向から子どもを見る位置、または、二人が並んで坐って二人とも正面を向いて話し、時々子どもの方を振り向くような位置関係で、初期の話し合いを始めるのがよい。これを逆に言えば、真正面から登校拒否児の顔を見ながら話せるようになれば、その子の現実世界に直面しようとする気力はかなり向上した(または残っている)と考えることができる。
 稀に、教師が登校拒否児に背中を見せながら話したり、教師が子どもの後から話したりする方が対話が進むこともある。これは、登校拒否児にとっては最も抵抗の少ない位置関係であるが、典型的登校拒否児を相手にする時は、そこまでしなくても済むことが多い。

(ハ)昔から「目は口ほどに物を言い」と言われているように、まなざしは相手との物理的距離や位置関係以上に対話の成立に大きな影響を与えるものである。
 視線には話し手の心理状態がそのまま表われるので、教師の心の中に登校拒否を非難したり、低く評価したりする心持ちがあれば、それはそのまま、まなざしに表われ、登校拒否児に伝わることを自覚すべきである。また、視線は真正面から見据えるのが、最も圧迫感が強大であるので、たとえ位置関係が真正面から向い合った形で対話できるレベルであっても、教師は登校拒否児から上手に視線を外さなければならない。
 子どもと視線をあわせる回数は、ゼロから少しずつ増し、子どもの顔を見る時も、口元・頬など目以外の場所を見るように配慮すべきである。登校拒否児と対話がスラスラできるようになり、思わず、互いの目を合わせるような場面を作れるようになれば、その教師の対話技術は非常に向上し、また、子どもとの信頼関係も好転しているといえよう。対話の間合いは、対話場面の机・椅子・部屋の中の調度品など場面の設定条件によっても大きく影響される。それゆえ、登校拒否児がリラックスできる雰囲気を対話場面に作り出すことが必要である。机や椅子の大きさ、部屋の広さ、簡素な調度品、採光の十分な明るい部屋、室温の調節なども配慮し、時には少量の飲食物などを用意することも有効である。これらはすべて、対話場面に居ること、話が途切れたりすること、嫌な話題になったりすることなどから生ずる気まずさを軽減し、できるだけ近い距離で話ができるようにする為に工夫して用いるものである。この項の冒頭に掲げた事例のように、せっかく家庭訪問したのに、障子の向こう側から登校拒否児がでてこない場合でも、教師との距離が近く、かつ教師の声が本人に聞こえれば、それなりに対話の前段階行動として価値があるのである。また、こんな場面で教師が学校給食に出たパンや果物を持って来てやり、本人に聞こえるように「給食のパンと果物持ってきたけど、よかったらあとで食べてね」と言って置いて行くなどの手段も効果が期待できる。教師が帰った後で、登校拒否児がそのパンや果物を一口でも食べてくれれば、持参したパンや果物は教師と登校拒否児の間合いを取り持ち、それを少し埋めてくれたことにもなるのである。
 以上、述べたような視点から、教師と本人との間合いを検討しながら、対語がうまく進むように工夫することが大切である。

あとがき

 本稿においては、典型的登校拒否の本態は、子どもが毎日直面しなければならない学校生活という現実世界に真正面から立ち向う気力が低下した状態であるとしたがこれを別の視点から言えば、学校生活場面では同級生などの仲間に入れなくなった状態(社会性の低下した状態)であるということもできる。こう考えると、登校拒否児の中には、学校には行けないが塾には行ける子どもがいることもよく分かる。学校と較べて塾では、ひとりひとりが遥かに孤立化しているので、友だちと揃って何かやらなければならないという圧迫感が少なく、居心地がよいからである。それゆえ、社会性の乏しいひとりっ子などには、「宿題をやってから友だちと遊びなさい」という指導よりも、「友だちと遊んでから宿題をしなさい」という指導の方が登校拒否の予防には有効である。
 いろいろ述べたが、ここでは紙数の関係で、典型的登校拒否児の概念とその指導法のうち、保護者や教師がまず守るべき原則についてのみ簡潔にまとめておいた。既に述べたように、専門的指導技法については、それぞれの専門書に譲るが、専門的指導技法を試みる場合にも、上述の基本原則に沿った指導をきちんと実施しておくことは、極めて大切である。

(「生徒指導キーポイントシリーズ4.」理論編より)

ページの先頭へ戻る

お問い合わせ

所属課室:長野県教育委員会事務局心の支援課

長野県長野市大字南長野字幅下692-2

電話番号:026-235-7450

ファックス番号:026-235-7484

より良いウェブサイトにするためにみなさまのご意見をお聞かせください

このページの情報は役に立ちましたか?

このページの情報は見つけやすかったですか?