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更新日:2019年6月14日

学びの県づくりフォーラムVol.2
養老孟司さんと考える これからの時代に必要な「学び」とは?

平成31年1月に開催したVol.1に引き続き、「学び」のあり方について県民の皆様とともに考えるべく、Vol.2を開催しました。今回は、岡谷市カノラホールに解剖学者の養老孟司さんをゲストにお迎えし、阿部知事と語り合いました。脳と虫、自然と五感、入力と出力など…、養老流の楽しい「学び」論に、約850名の皆様が聴き入りました。

フォーラム動画

動画にてフォーラムの模様をお届けします。(約1時間50分)
yoroabe YouTube(外部サイトが開きます)

 

 養老孟司さん講演

「知ること」「行うこと」を繰り返すことが学習

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養老 本日は、「学び」がテーマということでお話させていただきます。学んでいくということは、どういうことなのか。脳のなかの話になりますが、コンピュータのようなものだと思ってもらえればわかりやすい。脳に入ってくるのは、入力ですね。脳の働きには入力、計算、出力があり、五感を働かせて脳に情報を送り込むことによって脳が活性化します。五感とは見る、聴く、嗅ぐ、味わう、触る。感覚というのは、外の世界とがっちり結びついて、外から入ってきたものをガチャガチャと計算して、出力する。これをプログラムとかアルゴリズムと呼んでいるんですけど、皆さんいつの間にかそれを感覚で覚えているんですよ。

 皆さんが中学のときに習った比例。たとえば、赤ちゃんがハイハイして動く、またはよちよち歩きをする。動くたび、歩くたびに見えてくるものが近づいてきたり、遠ざかったりして、大きさも違ってくるじゃないですか。だけど、もともとの物体は変わらない。これを比例といいます。皆さん比例って、学校で教わるものだと思っていますけど、そうじゃないですよ。この赤ちゃんのように、日常生活のなかでひとりでに脳みそが比例という概念を持つ。その感覚を何度も繰り返すから、脳のなかにはあるルールができてきます。それが、学習なんですよ。自分でやって、その結果を受け入れて、そうしてまたやってみる。これを繰り返す。学習の根本はここにあります。

 それを陽明学では何といっているか。「知行合一」です。知ることと行うことが一つになる。やったことと、その結果をぐるぐる回していって、繰り返していくことが学習です。学習というのは、皆さん一生続けていくわけですね。

 この「入力」と「出力」ですが、最近は両方とも疎かになっている気がしませんか? たとえば、人が働くオフィスや子どもたちが過ごす学校。なんと驚くべきことに、一日中明るさが同じなんですよ。床も平らで硬さが同じ、風も吹きません。人工的なものの中で、入力が全然変わらないということは出力が変化しないということですから、学習になりません。たぶん今は子どもには「触っちゃいけない」と教えています。東京へ行ったらよくわかりますが、建物はコンクリート造りで、日陰だと冷たいし、陽が当たると火傷しそうなくらいに熱い。僕から見ると、建物自体が触ってくれるなと言っているように思えます。環境の変化を与えなければ、身体はさぼる。人間は上手に省略できる生き物ですから、必要でないと思えばさぼって、すぐに省略しようとします。子どもたちの環境で、私はこのことが一番心配なんです。

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感覚ではなく、意識が優先される時代

 東大に勤めていたときに、患者さんに言われたことがありました。ある先生に診てもらっているが、先生は人の顔も見ないし、手も触らないと。じゃあ何を見ているかというと、コンピュータなんですね。つまり、データです。今から60年近く前ですけど、すでにそのころ内科の先生がコンピュータを使って診断結果を出していました。

 これは、銀行での話になりますが、銀行へ行くと「身分証明書をお持ちですか?」と聞かれます。相手が私だとわかっていても聞かれるわけです。そうすると、私は急にわからなくなる。何がわからなくなるかというと、じゃあ、ここにいるのは一体誰なんだ、と思うわけです。同じような話で、こんなこともありました。ある会社の課長さんが、「養老さん、最近の新入社員は、同じ部屋で働いているのに私に話しかけないでメールで連絡をよこすんだよ」と言ってきました。それを聞いた途端に、私は納得しました。感覚を情報に変えてコンピュータで伝達する現代で、生身の人間は「ノイズ」になっているのだと。いま人間は、そういうふうに扱われている時代なんですよ。

 感覚がどんどん外れていって、今は脳で考える「意識」・「脳化」が優先される。じゃあ、その意識はどのくらい信用できるものですか。たとえば皆さんが眠っている間、世界はどうなっていましたか。意識がないんだから、わからないでしょう。目を覚ましたり、寝るのも意思によるものではないんです。意識というのは、実践がないんですよ。そんな実践のないものが世界を動かす権利があるんでしょうか。そこをよくお考えいただきたい。

 私は、医学生には体を動かすことを中心に授業をしています。机上での講義は1年に1度くらい、ほとんどは実習室に入ってメスを握ってもらい解剖を行う。すると学生は真剣に、まじめに取り組みます。体を動かすことで感覚から入っていって、どんどん上手になる。そして、ひとのことを本気で考えるようになります。解剖しながら、このひとの人生はどうだったのだろう、なぜ今こういう形で自分はこのひとと向き合っているのだろう……と。

 学習の根本は、身体を含めた感覚と運動、それを繰り返すことです。それしかないと、私は思っています。それを、日本では昔から「身につく」といっています。

 

養老さん×阿部知事 トークセッション

コーディネーター 長野県参与 船木成記

自然のなかで子どもたちの成長を促進

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阿部 長野県は今でこそ健康長寿県だといわれていますが、昔からそうだったわけではありません。食生活改善推進員の方や保健補導員の方々、いわゆる地域の健康ボランティアと呼ばれている皆さんが健康について学び、県民減塩運動などを推進して地域社会に広めていった。それが結果として健康長寿県に結びついています。まさに県民一人ひとりの力であり、長野県の大きな誇りだと思っています。そして、こういう運動を学びと自治でも進めていきたいと考えています。
 養老先生のお話をうかがって、実は私も同じ経験をしたことがありました。金融機関などに行くと身分証明書の提出を求められました(笑)。そういうデータ化、脳化が進んでいる時代に私が心配しているのは、見たくない、読みたくない、聞きたくないといった、今の自分に必要ではないと感じるものを排除する働きが出てきているのではないかということです。

船木 知事の言葉を受けて、私からも質問させていただきますが、勉強に限らず、新しいものに出合うときには何か違和感を感じることがあると思うんですけど、その違和感に私たちはどう向き合ったらいいんでしょうか?

養老 私の子ども時代は、トイレは水洗トイレではありませんでした。今の若いひとは、汚いもの、臭うものは嫌いますね。我々のような世代には、それがありません。だって、自分で出しているんですもんね(笑)。
 たとえば唾液もそうですが、口のなかにあるときは汚くないのに、いったん外に出すと汚いといわれて嫌われる。昔は虫も相当いましたが、今は駆除されて生活全般がきれいに、あまりに清潔になってきています。これは、相当人間の感性や感覚をそいでいる。もう少し、子どもたちの感覚の幅を広げさせたほうがいいのじゃないかと思っています。

阿部 先ほどいわれた、学校の中が一日中明るさが同じというお話で、周りの環境の変化がないとひとは育たないということでしたが、これは長野県の教育の重要なテーマでもあります。県では、自然環境のなかで心身ともに健全な子どもたちを育てようと「信州やまほいく」に取り組んでいるのですが、確かに最近の子どもたちは感覚、五感に対して鈍くなってきたのではと心配しています。私は東京生まれですが、小さいときは近所に雑木林がたくさんあって、森のなかに一人でたたずんでいると、子ども心に何か自然に対する畏怖を感じたものでしたが、自然に触れる機会が少なくなり、五感を使わなくなっているのではないか。そんな時代に、私たちは子どもたちに対して何ができるでしょうか。

養老 これは一概にはいえないことですが、まず教育ということでは、私は小学生の頃は勉強をしないで遊んでいていいんじゃないかという意見です。人間には適切な時期というものがあって、早期教育は逆に子どもを苦しめ、その割には結果が得られない。また、今の教育は一律横並びですから、そのシステムに合う子ども、合わない子どもが出てくる。むしろ今やらなければいけないのは、体を使わせること、運動です。とにかく体づくりが第一です。大事なのは、頭の良さじゃない。頭が丈夫だということです。これは、どこにいても何が起こっても、的確な判断ができるということです。そして、運動の次に学業でいいんじゃないかと思います。

 

一人ひとりの子どもに向き合う柔軟な教育を

yoro5養老 私が今の日本の教育で気になるのは、少子化が起こり、生徒の数が減少していって、次々と学校の統廃合が進んでいることです。そうして生徒は少なくなったけど、先生は相変わらず夏休みでも忙しく、学校へ出かけて行って仕事を続けている。これって、どういうことですかね。子どもの数が減れば先生は暇になるはずであって、その分今までよりも子ども一人ひとりに余分に手をかけられるはずでしょう。そういう議論がないんですよ。私は、子どもは外でさんざん遊んでいればいいと思います。放りっぱなしで遊ばせることで、大人のプレッシャーもなくなります。長野県の小学生たちは、6年間遊んでいるのがいいんじゃないですか(笑)。

阿部 大胆な養老先生のご意見ですが、会場の皆さんはどう思われましたか?(大拍手)
 確かに、早く勉強ができる子もいれば、スポーツが得意な子もいる。ひとによってそれぞれ違うのに、一律に同じレベルで勉強を受けさせると、できない子はそれだけで劣っていると判断されます。もう少し教育は、柔軟性が必要ですし、これだけ社会が変化していくなかで、教育も変えていく時代がきているのかもしれません。

 

「わかる」ことは「かわる」こと

船木 養老先生の共著のなかに、『「わかる」ことは「かわる」こと』という本がありますが、これは学びに近い考え方だと思いました。

養老 たとえば、重い病気にかかった人が、春になって桜を見ると、もう来年の桜は見られないかもしれないと思う。そうすると、その桜は、普段見ている桜ではなくなるんです。それは、桜が変わったのかというと違う。自分が変わったんです。自分の時間がもうないかもしれない、そう考えた時に「さて、本気で生きよう」と思う。
 自分が変わると、世界も違って見えるんです。だから、私は若い人が退屈だと言っているのを聞くと、多少腹が立つんですね。退屈だっていうのは、要するに世の中がずっと変わってないと思っている。世の中は変わってないんじゃない、自分が変わってないんです。自分自身が変わってしまう、それが、学ぶということです。

阿部 私もギランバレー症候群を患ったことがあり、それで世の中の見え方がだいぶ変わりました。車椅子に乗っている時の目線の視界が違いましたし、ベッドに伏せている時に廊下を駆け足で走る音だけで恐怖を感じたり。普段の生活がいかに幸せかを実感し、それが人生の大きな転機にもなりました。養老先生のお話をうかがって、そのことこそ学びだったんですね。学びというのは、机に座って勉強するだけではないと、改めて考えさせられました。

養老 学びというのは、やめられないものなんです。本気でそれに取り組んで面白くないと感じるなら、そのほうがおかしいんです。

船木 本気になれば、学びというのはやめたくなくなるということですね。

阿部 学びは面白い、学びを通じて自分自身が変わっていくんだという養老先生のお話は、今後の学びの県づくりの重要なキーワードになると思います。聴講された皆さんにとっても、今日の講演を参考に一人ひとりが自分の学びや地域の学びの取り組みに生かしていただければありがたいと思っています。養老先生、今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。

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学びの掲示板

来場者お一人おひとりのフォーラムにおける学びを見える化し、みんなの学びへとつなげるため、「学びの掲示板」を会場に設置。皆様の感想を付箋にお書きいただき掲出しました。「五感を磨くことが大切」、「入力と出力の繰り返しが学習」などについて、多くのご感想をいただきました。

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解剖学者 養老 孟司さん  大正大学客員教授 東京大学名誉教授
1937 年神奈川県生まれ。1962 年東京大学医学部卒業後、1967 年同大学大学院にて医学博士号を取得。1981年同大学医学部教授。1995 年に退官後、北里大学教授、大正大学客員教授、同大学地域構想研究所顧問、東京大学名誉教授。2003 年『バカの壁』は、毎日出版文化賞、新語・流行語大賞を受賞。


長野県参与 船木 成記 高知大学客員教授
1964 年生まれ。(株)博報堂入社後、ソーシャルマーケティング手法によるビジネス開発業務に従事しながら、内閣府、環境省、尼崎市等の公的機関の要職を歴任。2017 年より現職、長野県総合5か年計画策定に関わる。


 

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