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しあわせ信州

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更新日:2015年4月1日

ボルネオ島及びスラウェシ島に生息するミツバチ属の歴史生物地理学的研究

研究課題名:ボルネオ島及びスラウェシ島に生息するミツバチ属の歴史生物地理学的研究

研究期間: H14~16年度(2002~2004年度)

 日本から東南アジアにかけての地域で、地質学的な時間スケールでの気候変動がもたらしたミツバチの分布域の変動とミツバチ相の形成過程を解明し、地域性をもった生物群集の保全への指針として提供することを目的として、平成14年度から16年度にかけておこないました。

ボルネオの熱帯雨林 ボルネオの熱帯雨林

 東南アジアの熱帯雨林には1億年の歴史があるといわれています。恐竜がいた時代から現在にいたるまで、このあたりには温暖で湿潤な森が繁茂し、そのなかでさまざまな生物の進化がくりひろげられてきました。けれども最近の研究で、地球が全体として寒冷化・乾燥化した氷河時代には東南アジアの熱帯地域もその影響を受け、今の温帯林に似た植生が広がった場所もあることがわかってきました。おそらくそのような時代には、今の日本列島の周辺にはもっと寒い地域の植生が広がっていたことでしょう。

 現在東南アジアの熱帯雨林に生育している多様な樹木の大部分は、昆虫や鳥などの動物によって花粉を媒介されることがわかっています。このような動物たちも植物と同じように地球規模の気候変動のもとで進化をとげてきたはずです。ある場所では寒冷や乾燥などの新しい気候条件に適応した種が生まれ、別の場所には古い時代から続いてきた温暖で湿潤な森に適応した種が温存されたことでしょう。このような進化の歴史を復元することは、熱帯林のどの場所をどのように保全するかを考えるうえでも役立ちます。

 東南アジアは世界のミツバチの分布の中心です。1980年代の後半まで、世界のミツバチは4種で、そのうち3種が東南アジアにいるとされていました。ところが1990年代後半までに新しい5種が確認され、そのうち4種が東南アジアの熱帯雨林にいることがわかりました。このようなミツバチの進化はどんなふうにして起こったのでしょうか。また地球の長期的な気候変動とどのようにかかわってきたのでしょうか。このことを解明するため、わたしたちは特に多くの種が分布するボルネオ島とスラウェシ島を主な調査地として選び、さまざまな場所でミツバチを採集しその遺伝子を分析して進化の歴史を復元するという研究をおこないました。

 この地域で新しく発見された種類のミツバチはそれぞれ、ボルネオ島とスラウェシ島のよく残された森林を主な生息場所としています。そのため、わたしたちの調査はそうした森林のありそうな場所の見当をつけ、何日もかけてその場所に向かうことからはじまります。砂埃の舞う道を一日中自動車にゆられることもあれば、離島をめざして小さな船に乗ることもあります。ボルネオ島東部(東カリマンタン)にあるクタイ国立公園に向かったときには、1990年代後半に起きた大森林火災の爪跡が広い範囲に残っているのをみました。またスラウェシ島の南部では、マングローブ林を切り開いて造られたエビの養殖池にあちこちで出会いました。このエビは日本にも輸出されていることが知られています。 

 このあたりは香辛料などいろいろな産物をめぐって古来さかんに交易がおこなわれた海域でもあり、今でもさまざまな民族が生活しています。インドネシア科学院のカホノ博士が地元の方々に聴き取りをした結果、ちがった言語にはミツバチの種類を区別するちがった単語があり、それぞれの場所で野生のミツバチの巣から蜂蜜をとり利用してきた様子が浮かびあがってきました。

 このような調査を通じて採集されたミツバチの遺伝子は、京都大学の田中洋之博士によって分析がおこなわれました。その結果、この地域の熱帯雨林は高緯度地方の氷河期に気候の寒冷化・乾燥化の影響を受け縮小し分断された可能性があること、また現在のこの地域にはそれらのレフュジア(隔離された生息地)に由来する同一種のミツバチの複数の系統が存続する場合があり、それらの地理的な遺伝分化のパターンは従来提案されてきた生物地理的な区分とはちがっていることなどがわかりました。

 この共同研究の方法を発展させ、今度は日本列島を対象として、植物とマルハナバチのあいだに生じた共進化の道筋や土地利用など人間活動の影響を再構成しようというプロジェクトが動きはじめました。信州の山々はその重要な舞台のひとつです。熱帯から寒帯までを広い視野におさめながらダイナミックな自然と人間の歴史を復元し、その成果を、地域性をふまえた自然との共存のあり方への提言につなげていきたいと考えています。

なお、ミツバチに関するこの共同研究は、石田財団の研究助成を受けておこなわれました。

(長野県自然保護研究所ニューズレター「みどりのこえ」28.の記事に加筆・修正)

 樹にぶらさがるオオミツバチの巨大な巣(ジャワ島で)

成果発表

論文

Suka, T. and Tanaka, H. (2005) New mitochondrial CO1 haplotypes and genetic diversity in the honeybee Apis koschevnikovi of the Crocker Range Park, Sabah, Malaysia. (Journal of Tropical Biology and Conservation: 1: 1-7)

Tanaka, H., Suka, T., Kahono, S., Samejima, H., Maryati, M. and Roubik, D. W. (2003) Mitochondrial variation and genetic differentiation in honey bees (Apis cerana, A. koschevnikovi and A. dorsata) of Borneo. Tropics 13(2): 107-117.

学会講演

須賀 丈・田中洋之・Maryati, M. (2004).第51回日本生態学会大会, 8月, 釧路市.

須賀 丈・田中洋之・渡辺邦夫・Kahono, S.・Roubik, D. W. (2003) 第50回日本生態学会大会, 3月, つくば市.

田中洋之, D.W. Roubik, 須賀 丈, 柳沢 直, 渡辺 邦夫, 田中美希子, S.T. Bastian Jr,, S. Kahono, Maryati, M. (2003) 第50回日本生態学会大会, 3月, つくば市.

須賀 丈・田中洋之 (2003) 日本熱帯生態学会ワークショップ3月, 松山市.

その他

須賀 丈 (2004)  共同研究紹介: 進化の歴史を保全に活かす. 長野県自然保護研究所ニューズレター「みどりのこえ」28.

須賀 丈 (2003) 山崎常行教授退官記念・日本熱帯生態学会ワークショップ報告「これからの熱帯林遺伝子研究をどうおこなうか」. 長野県自然保護研究所ニューズレター「みどりのこえ」26.

須賀 丈 (2003)  フィールドノートから: 熱帯雨林に秘められたミツバチの謎. 長野県自然保護研究所ニューズレター「みどりのこえ」24.

(課題担当者:須賀 丈)

共同研究者

田中洋之(京都大学霊長類研究所、研究代表者)

Sih Kahono(インドネシア科学院)

Maryati Mohamed(マレーシア・サバ大学・熱帯生物保全研究所) ほか

お問い合わせ

環境保全研究所 

電話番号:026-239-1031

ファックス:026-239-2929

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